高校ビブリオバトル2016

神高文化祭をおそった不思議な盗難事件に古典部員達が挑む

『クドリャフカの順番』米澤穂信

山田哲平くん(長崎・長崎南山高校2年)

『クドリャフカの順番』(角川文庫)
『クドリャフカの順番』(角川文庫)

本書は、『氷菓』が第一作の、古典部シリーズの第三作になります。古典部シリーズとは、神山高校という高校にある、少し変わった文化部、古典部。ここに所属している4人の部員たちが日常の謎に挑むミステリーです。

 

第三作『クドリャフカの順番』では神山高校の文化祭がテーマです。神山高校にある文化部はなんと50を超えます。そのため、文化祭も盛大に行われて、しかも3日間も続きます。盛大な文化祭なのに、ある事件が起こるんです。その名も十文字事件。

 

「あ」のつく部活から「あ」のつくものが盗まれる。例えば、アカペラ部からアクエリアスが、囲碁部から石(碁石)が盗まれる。これが「あ、い、う、え、お、か、き、く、け、こ」の十文字分起こるのです。

 

この事件に古典部が挑むというわけですが、古典部にも問題が起こります。古典部は文化祭で30部の文集を販売する予定だったのですが、発注ミスをしてしまって、届いた文集がなんと200部。この200部の完売と十文字事件の解決を文化祭の期間、わずか3日のうちに行わなければならなくなりました。さあ、古典部員たちはどう奮闘するのか。

 

タイトル『クドリャフカの順番』の、「クドリャフカ」は犬の名前です。1957年ソ連のスプートニク2号というロケットに乗せられて宇宙に連れて行かれます。そしてそのままそこで亡くなってしまうんです。1957年といえば人類がまだ宇宙に行っていないとき。犬のクドリャフカは、動物実験のために宇宙に行ったのです。人類の宇宙科学の発展という期待を背負って宇宙に飛び立っていったわけです。

 

この作品を読むにあたっては、この「期待」という言葉を頭において読んでみてください。この作品の最大の魅力は、一つの言葉に複数の意味を持たせている点にあると思います。この「期待」という言葉は、普段他者に対して使っていると思います。本書でもそうですが、「期待」の真意は自分に向けられているんです。どういうことかは、読んでみてください。

 

さらにこの「期待」という言葉は、使っている人によってこの言葉の重みが違う。使われている場面によって、前向きの意味なのか、後ろ向きの意味なのかも違うんですね。「期待」という言葉一つをとっても複数の意味があるんです。

 

山田哲平くん
山田哲平くん

米澤さんの独特な手法として、この作品は古典部員4人の目線にそれぞれ切り替わりながら物語が進んでいく。そのため、心情の変化が非常に読み取りやすく、登場人物にどんどん感情移入して作品自体に入り込むことができます。

 

一回読んだだけではこの作品の魅力は、100%伝わるはずがありません。私は7回読んでいます。この作品は読めば読むほど面白くなるんです。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2016 全国大会の発表より>

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山田くんmini interview

好きなジャンルはミステリー、好きな作家は米澤穂信です。

 

『サジュエと魔法の本』は薦められて、初めて最後まで読めた作品です。内容はファンタジーです。

 

私の好きな、米澤穂信先生作の青春ミステリー「古典部シリーズ」に登場する里志の生き方に影響を受けました。楽しいことのために、それ以外を躊躇なく切り捨て、自分というものを持っている彼の生き方は見習うところがあると思いました。

 

『いまさら翼といわれても』(米澤穂信著)は、6年待っただけに印象に残っています。

 

暗い話に手を出したことがないので、『人間失格』など有名で重い話を読んでみたいです。