高校ビブリオバトル2016
怪物が語る3つの物語に、少年は心の闇と向き合う
『怪物はささやく』パトリック・ネス ジム・ケイ:絵、池田真紀子:訳
菅野 望くん(福島県立安達東高校3年)

「物語はこの世の何より凶暴な生き物だ。物語は追いかけ、噛みつき、狩りをする」。
これは本書の一文です。
この本の原案はシヴォーン・ダウドという作家が作りました。ダウドはイギリスで有名な児童文学賞であるカーネギー賞を受賞した作家ですが、彼女は癌のために亡くなってしまいました。そのダウドがメモに書き残したアイディアを小説にしたのが同じくカーネギー賞を受賞したパトリック・ネスという作家です。この本は、こうして2人の作家によって作り上げられたのです。
お母さんが病気、それを原因とした大嫌いな祖母との同居。これらのことによって自分の殻に閉じこもってしまった少年、コナー・オマリー。彼の元に深夜怪物が現れます。この本には、その怪物が語る3つの物語とコナー自身が語る4つ目の物語を通して、彼の変化と成長が描かれています。
怪物が語る3つの物語の1つ目は、王子や魔女が登場するファンタジー。2つ目は、薬剤師や教会の司祭が登場するリアリティのある話。3つ目は、コナーと同じ境遇にいた人間、そしてその人間に対する怪物のある行動が描かれています。そして、3つの物語はコナー自身が語る4つ目の物語に繋がります。
その4つ目の物語とは、怪物が現れる前からコナーがうなされてきた悪夢です。その悪夢とは愛していると思っていた母に対して抱いていた暗い思い。ずっと目をそらしていた認めたくない真実でした。
彼は1つ目の物語で、善悪は紙一重のものであるということを知りました。それによって大好きな母へ抱いていた暗い思いに気付かされました。2つ目の物語で、一つのことを信じぬくのが辛く険しいということを知りました。だから目をそらしていた真実を認めざるを得なかったのです。
3つ目の物語で、人間は誰もが闇を抱えていると知りました。だからこそ彼は愛している母に抱いていた暗い想いを語ることができたのです。物語は少年の成長に必要なものでした。
この作品の魅力はストーリーだけではありません。例えばタイトルの『怪物はささやく』。怪物というとゴジラやキングコングのように荒々しく雄叫びを上げるイメージがあります。ですがこの作品のタイトルは『怪物はささやく』。原作は『A Monster Calls』。直訳すると「怪物は呼ぶ」「怪物は命じる」で、「ささやく」とはなりません。
ではなぜ、あえて「ささやく」という怪物のイメージからは遠く離れた言葉をタイトルに使ったのか。私はこう思います。たった一人の人間に向けて話しかけていることを強調するためではないかと。

作品中、怪物はコナー一人にだけ話しかけています。そのコナーにだけ話しかけているという特別感を強く出すために『怪物はささやく』というタイトルになったのだと思います。
そして、表紙や挿絵。これは白と黒で統一されています。それは夜中に怪物が現れるというこの作品の醍醐味を強く引き出すためだと思います。
怪物がなぜコナーの元に現れたのか。そして、何をささやいたのか。コナーは怪物のささやきから何を感じ取り、どう変わっていったのか。心の闇に向き合う少年の勇気と成長の物語を読んでみてください。
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<全国高等学校ビブリオバトル2016 全国大会の発表より>
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