高校ビブリオバトル2016

嘘をつくとランプが灯る首輪をつけた国民。嘘はいけないものなのか

『うそつき、うそつき』清水杜氏彦

前島千手さん(神奈川県立平塚中等教育学校4年)

『うそつき、うそつき』(早川書房)
『うそつき、うそつき』(早川書房)

ある1人の少年フラノと、彼を取り巻くたくさんの嘘について書かれた小説です。この本の世界では、国民に首輪がつけられています。首輪は嘘をつくと赤いランプを灯し、相手に嘘を伝えます。さらに、首輪には国民一人一人のナンバーが登録されていて、電車や病院はこれがなければ利用できません。政府が国民を徹底的に管理している世界なのです。もしその世界の枠からそれ、犯罪をしたり首輪を外そうとしたりすると、首輪内部のワイヤーが締まり、装着者を窒息させます。政府は、この首輪のおかげで、「秩序の守られた安全で安心な世界になった」と言っています。果たして本当なのでしょうか。

 

主人公のフラノは児童養護施設で育ち、彼が「師匠」と呼ぶ男に引き取られたことをきっかけに、「非合法の首輪除去者」となります。彼が最初に首輪を外した相手は、小学生のユリィでした。彼女は母による暴力を受け、施設に住んでいます。でも、ユリィは母親のもとに帰りたいのです。しかし、それを首輪が邪魔します。暴力を受けたという事実から逃れることができないのです。フラノは最初、犯罪者ではなく首輪に苦しむ善良な市民を相手に首輪を外していきます。それが彼なりの正義であり、信念だったのです。

 

でも、必ず成功するとは限りません。そして、失敗は相手の「死」を意味します。彼はいくつもの死と出会い、向き合うことになります。そして、依頼者もその死に際で、彼に様々な姿を見せます。それは時に美しく、時に滑稽なこともありました。死んでしまうことを覚悟し、生きることを諦めたある依頼者の姿は、優しいようにすら見えました。

 

そんなたくさんの経験の中で、彼の心にも様々な変化が起きます。いくつもの負の感情、揺らぐ信念。自分にとっての正義とは、生きるとは、優しさとは、幸せとは。何が正しくて、何が悪なのでしょう。そんな彼は、大切だと思う少女に出会います。「彼女を助けたい」、その一心で首輪外しの技術を磨きます。そんな彼の前に立ちはだかったのは存在自体が謎に包まれている、難攻不落の首輪、「レンゾレンゾ」でした。彼は、首輪の謎を追い求めていくうちに、一つの真実へとたどり着くのです。

 

前島千手さん
前島千手さん

この物語は決して、ハッピーエンドではありません。でもバッドエンドでもない、私はそう思います。この物語の最後には、悲しいけれど美しい光景と、穏やかだけれど確かな時間の流れがあるように見えました。たとえ首輪をしていても、人間は結局嘘をつくのでしょう。そして、本当のことを言うことが、必ず幸せなことだとは限りません。本当に嘘はいけないものなのかは、ずっと誰にもわからないものなのでしょう。

 

私にとって正義とは何なのかはわかりません。この本の中でも、主人公や政府は彼らなりの正義に従って、首輪をつけたり、外したりしているのです。だから、きっとあなたがたは考えてしまうでしょう。あなたがたにとって、嘘とは何かということを。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2016 全国大会の発表より>

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