高校ビブリオバトル2016
爆破予告に怯えつつ、生きようともがく乗客たち
『新幹線大爆破』ジョゼフ・ランス、加藤阿礼:著 駒月雅子:訳
諏佐僚一くん(東京都立板橋高校2年)

この小説は爆弾が仕掛けられた新幹線を舞台にしたパニック小説です。欧米でもヒットした、1975年公開の日本映画を小説化しています。一般的に、パニック小説と言えばバスジャックやハイジャックが定番です。しかし敢えて新幹線を舞台にすることで、新幹線特有の安心感と緊迫の狭間で揺れる乗客たちの感情が巧みに表現されています。
またおもしろいのは、この話は日本人が書いたのではなく、映画をもとにイギリスで小説化されたものを逆輸入したものであることです。
1970年代の高度経済成長期、犯人から鉄道会社に1本の電話がかかってきます。犯人曰く、東京駅を出発した博多行き新幹線に爆弾を仕掛けた。その爆弾は時速80㎞以下になると爆発する。信じられないのであれば、北海道の貨物列車を1本爆破する。
爆破予告の電話を受けて「これは単なるいたずらではないのか」という人と「いや、ちゃんと事実を確認すべきだ」という人に分かれてしまい、話がまとまらないうちに北海道の貨物列車は本当に爆破されてしまいます。そして次はいよいよ新幹線。その恐怖が、警察、鉄道会社、人質である乗客1500人に襲い掛かります。果たして新幹線が終点に着く10時間後までに、爆弾を解体して犯人を逮捕し、人質たち1500人を救うことができるでしょうか。
余計な混乱を避けるため、新幹線の車掌は爆弾の情報や犯人との交渉状況を一切教えてくれません。乗客はラジオを通して爆弾を積んでいる事実を知りますが、なかなか情報を手に入れることができずパニックに陥ります。僕が一番気に入っているシーンは、この乗客が我を忘れた姿です。ある乗客は突如現れた死の恐怖に泣き苦しみ、ある乗客は一体いくらの保険金が支払われるのか考えています。大手企業の社長は、金と権力を使ってその場をしのごうとします。
パニックに陥った人々は、集団を離れてそれぞれ個人で動き出します。自分が生きるために必死に行動し始めるのです。乗客たちはどんなに騒いでも爆弾をどうにかできるとは思っていません。それでも何かせずにはいられないのです。苦しみながらも懸命に生きようとする姿には、誰もが胸を打たれると思います。

はたしてこの10時間で何ができるでしょうか。僕は遺書を書こうかと思いましたが、よくよく考えれば爆弾が爆発したら遺書なんて燃えてしまいます。人間はこういった状況でどのように追い詰められていき、パニックになったらどんな姿を見せるのか。この小説を通して知ってもらえればと思います。
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<全国高等学校ビブリオバトル2016 全国大会の発表より>
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今後2年間にビブリオバトルで対決したすべての本を読んでみたいです。少なくとも学生時代には…。