高校ビブリオバトル2016

過去に戻れる喫茶店。ほんのわずかな時間、後悔と向き合う

『コーヒーが冷めないうちに』川口俊和

中村輝保さん(和歌山県・近畿大学附属新宮高校2年)

物語の舞台は、「フニクリフニクラ」という不思議な喫茶店です。ある席に座ると、注文したコーヒーが冷めてしまうまでの間、自分の望んだ過去や未来に移動することができます。過去や未来に移動する中では、いくつかのルールが存在します。その中で私が一番重要だと思ったものは「過去に戻っても未来に行っても今の現実は絶対に変えられない」というルールです。

 

この本は、4つの物語から構成されています。結婚を考えていた彼氏に突然別れを告げられてしまう女性の話。記憶がどんどん消えていってしまう男の人と看護婦のお話。家出してしまったお姉さんとそれを追いかける妹の話。そして、私が一番好きだと思うのは喫茶店で働く妊婦の話です。この妊婦さんは体が弱く、お腹の赤ちゃんを産んだらもう自分は死んでしまう、と医者に伝えられていました。それならば、死ぬ前に自分の子どもに一目でも会うべく、未来に行こうというお話です。

 

私は、この喫茶店で変えられるものは「過去の自分」ではなく、「これからの自分の生き方」だと思います。「過去に戻りたい」と思う人には必ずそこに後悔があります。大切なことは、その後悔を消すことではありません。自分がその後悔ときちんと向き合って、これからどう生きていくかを考えることです。そしてそれは、注文して注いでもらったコーヒーが冷めてしまうという、ほんのわずかな時間の中でもできることなのです。

 

私は高2になるときの文理選択で大失敗をしてしまいました。先生にも親にも、「お前に理系は無理だから行ってはいけない」と猛反対されたのにもかかわらず、理科も数学もそれほどできないのに、理系に進みたいという一心で私は理系に進みました。結局それが大失敗に終わってしまい、3年からは文転して文系に行くことになりました。どうして親の言うことや先生の言うことをちゃんと聞かなかったのだろう、とすごく後悔し、取り返しのつかないことをしてしまった、と自分を悔やみました。

 

中村輝保さん
中村輝保さん

そんな中、私はこの本に出会いました。それまでは後悔するばかりでしたが、「自分は1年間理系を選んで文転し、皆より不利な立場にいるのだから、皆よりも勉強して追い越すくらい勉強を頑張ろう」と前向きに思えるようになりました。

 

誰にでも「あの時ああだったらなあ」、「あの時こうしていたらなあ」、「あの時に戻って過去を変えたい」と思う気持ちはあります。そんな気持ちを、この本を借りて消化できるのではないかなと思います。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2016 全国大会の発表より>

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