高校ビブリオバトル2016

神は宇宙人、竜は神の乗り物。古事記、日本書紀から謎に迫る

『竜の柩』高橋克彦

齊藤恵里さん(鹿児島県立鹿屋高校2年)

『竜の枢』(講談社文庫)
『竜の枢』(講談社文庫)

物語は、東北の何もない山が突如、8億円で購入されたことから始まります。なぜ何の特徴もない山が8億円で購入されたのか。その調査を依頼されたのが、この物語の主人公、テレビディレクターであり、日本や世界中の歴史に精通している九鬼虹人(くき・こうじん)でした。依頼主は、金に糸目をつけず、かなりの手荒いことをしてまで後始末を請負ってくれる日本の政財界のドン。東北の地に隠された秘密を追って、津軽、信濃、出雲と列島を縦断しながら、その土地に残る民間伝承、日本神話、古事記、日本書紀を読み解き、物語は進んでいきます。謎解きと並行して、敵対する勢力との戦い、虹人に力を貸してくれる魅力的な仲間の登場に、息つく暇もありません。

 

虹人は、独自の考察で神と文明の謎に迫ります。舞台は、日本からアジア、ヨーロッパへ、そして時空を飛び、なんと神々の世界にまで移っていきます。ついには、繋ぎ合わせたパズルから、「神は宇宙人であり、竜は神の乗り物、ロケットでありUFOだ」という説を展開していきます。

 

考察のために作者が用意したパズルは、歴史好きにはたまらない事象ばかりです。例えば、「日本人はムー大陸に君臨していた人々の子孫であり、釈迦やキリストがその叡智を学ぶべく来日した」という話を荒唐無稽としながらも、キリストの墓が日本にあること、キリストが訪れた「戸来(へらい)村」の響きが「ヘブライ」に似ていること、戸来村一帯が「天国」と呼ばれていたこと、中世イギリスの世界地図で日本は「ジパング」ではなく「ヘブン」と表記されていたことを、妙なリアリティを感じさせる事例として挙げています。

 

まだまだ面白い解釈はあります。諏訪大社の御柱は、形がロケットに似ています。御柱は、神の乗り物、竜であり、人は神の乗り物である竜を神と崇めたのです。日本人が神を「一柱、二柱」と呼ぶことも納得させる説の一つでしょう。また、竜という漢字の意味にも言及します。「竜」を使った熟語から、竜には天子や光、乗り物という意味があることがわかります。竜踊りでは、竜が玉を追いかけます。日本や中国、東南アジアでは竜と玉がワンセットになっていますが、なぜそうなるのか誰も説明していません。しかしこれを、「母船から飛び出たUFO」と解釈すると、竜と玉がワンセットであることは必然だ、と妙に納得させられるのです。

 

齊藤恵里さん
齊藤恵里さん

今までに述べた例はほんのごくごく一部。本当に数えたらきりがないほどの、歴史好きにはたまらない、悶えるような事象に、虹人が新たな解釈を加えていきます。それは山のような文献を読み込んだ作者の知識の豊富さと自由な発想力によってなされているものです。読み始めるとページをめくる手が止まらず、全6巻を3日で読み終え、また自分でも全巻揃えてしまうくらいには面白かったです。虹人によって語られる作者の歴史観にページをめくるごとに衝撃を受け、歴史のロマンや世界の不思議を感じずにはいられません。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2016 全国大会の発表より>

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