高校ビブリオバトル2016
「ミルクをコップで飲む」行為にも不安を感じるカフカ
『絶望名人 カフカの人生論』フランツ・カフカ 頭木弘樹:編訳
金川珠希さん(香川県立高松桜井高校2年)

チェコのプラハ生まれの作家、カフカの日記や手紙から言葉を集めた名言集です。名言というとポジティブなものを思い浮かべますが、カフカはこの題名の通り、「絶望名人」なので、ネガディブなものをたくさん残しています。
「ミルクのコップを口のところへ持ち上げるのさえ怖くなります。そのコップが目の前で砕け散り、破片が顔に飛んでくることも起きないとは限らないからです」
誰でも将来何があるかわからないと思うと不安になりますが、カフカは「ミルクをコップで飲む」ということでさえも不安に襲われてしまうのです。カフカはとても繊細な心の持ち主でした。
そんなカフカにも、3人の恋人がいました。その中の1人、フェリーチェとカフカは友人であるブロードの家で出会いました。カフカはフェリーチェに一目惚れして、毎日のようにラブレターを送ります。
「将来に向かって歩くことは、僕にはできません。将来に向かってつまずくこと、これはできます。一番上手くできるのは、倒れたままでいることです」
これでも、ラブレターです。カフカは好きな人に送るラブレターでさえ自分の弱いところ、だめなところを言ってしまいます。こんな手紙をもらったら引いてしまうと思うのですが、フェリーチェは毎日のようにこのラブレターを送られ、かえって興味が湧いてしまったのか、カフカからのプロポーズを受けてしまいます。しかし、カフカは自分から申し込んだ結婚にもかかわらず、婚約を破棄してしまいます。これを二度繰り返した結果、フェリーチェはカフカに愛想を尽かして、別の実業家と結婚し、子どもも生まれます。カフカはこの後恋人ができますが、誰とも結婚することはできずに死んでしまいます。カフカは結婚に対しても「絶望」してしまいました。
この本は、カフカの絶望したこと毎にまとめられています。例えば、将来に絶望した、世の中に絶望した、自分の心の弱さに絶望した、仕事に絶望した、夢に絶望した、人付き合いに絶望した、真実に絶望した。ほかにもたくさんのことに絶望しています。
カフカは最後には結核になって死んでしまいます。ところが、この結核という病気には「絶望」していません。なぜなら、結核になれば自分の嫌いな仕事や人付き合いをしなくてすむからです。カフカは繊細なだけではなく、怠け者でもあったと思います。

最近、研究で、辛い時には辛い気分に浸りきるとかえって元気が出てくる、ということがわかっています。絶望的な気分になったときは、絶望名人カフカの言葉を読んでみてください。きっと元気が出てくると思います。この本は編集者の頭木弘樹さんの解説も加えられていて、さらに楽しく読むことができます。元気な人がこの本を読んでも、きっとカフカのとりこになってしまうでしょう。
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<全国高等学校ビブリオバトル2016 全国大会の発表より>
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