高校ビブリオバトル2016

岡山弁で繰り広げられる、少女の妄想と友情の行方は…

『でーれーガールズ』原田マハ

染谷早紀さん(埼玉県立浦和第一女子高校2年)

『でーれーガールズ』(祥伝社)
『でーれーガールズ』(祥伝社)

例えば大阪弁なら軽快で明るいイメージ、京都弁なら柔らかくおしとやかなイメージと、方言にイメージを持っていますが、岡山弁についてはどのようなイメージがあるでしょうか。私は、具体的なイメージは浮かびませんでした。しかし、岡山が舞台となっているこの『でーれーガールズ』を読んで、岡山弁の持つ、ゆったりとした語感の魅力を知りました。

 

タイトルにある「でーれー」は岡山の方言で「ものすごい」という意味があるそうです。その言葉通り、この物語は、2人の少女の「でーれー」アツい絆の物語です。

 

舞台は1980年、岡山。主人公は女子校に通う佐々岡鮎子。物語は、この鮎子が東京から岡山に転校してくるところから始まります。鮎子は東京出身のため、標準語をしゃべります。周囲の女の子からは「佐々岡さんって標準語なんかしゃべっちゃって、でーれーお嬢様ぶってるわ」と思われ、なかなか友達ができません。

 

そんな孤独な鮎子の唯一の心の支えが、鮎子の愛しの彼氏、ヒデホ君です。ヒデホ君はドイツ人とのハーフで超イケメン、さらにはギターも弾けちゃう、大学生の男の子。鮎子のヒデホ君への愛は半端ではなく、彼女はなんと、自分とヒデホ君を主人公にした恋愛マンガまで描いてしまいます!

 

これは絶対人には見せられません。でも鮎子は、このマンガをクラスメイトの武美に見られてしまいます。武美は、いつも鮎子に対して「佐々岡さんってお上品すぎるんじゃが。でーれーとっつきにくいんじゃ!」と言うような、気の強い女の子でした。

 

そんな女の子に、自作の恋愛マンガを読まれてしまった!これは危機的状況、絶対馬鹿にされる!! 身構える鮎子ですが、武美の口から出たのは意外な言葉でした。

「このマンガ、でーれー面白かった!」

そう言って、武美は鮎子の描くマンガの続きを読みたがりました。

 

ノートに描いたマンガの続きを見せて、「ねえ、私の彼氏のヒデホ君、こんな人なんよ。でーれーかっこええんよ。私のこと、すっごく大事にしてくれるんよ!」と語りかける鮎子。武美はますます物語に引き込まれ、「ねえ、あゆ、マンガの続き、見せて!もっと聞かせて、ヒデホ君のこと」、とどんどん食いついていきます。これをきっかけに2人は親しくなっていきます。

 

しかし・・・普通に考えて、ドイツ人とのハーフで超イケメンでギターも弾ける男の子なんていません。そう、実は、ヒデホ君は全部鮎子の妄想で、彼女のマンガの中だけで生きる人です。そんなことはつゆ知らずの武美ちゃん。武美は、ヒデホ君がこの世に実際にいると信じて、恋に落ちてしまったのです。

 

どうしよう、全部嘘なのに。全部私の妄想でしかないのに! しかし、鮎子は武美に真実を伝えられません。だって、この世のどこにもヒデホ君がいないと知ってしまったら、きっと武美は深く傷ついてしまうだろうから。

 

染谷早紀さん
染谷早紀さん

友のため、自分のために、ヒデホ君は本当にいると演じ続ける鮎子ですが、そんな彼女の前に、リアルな男子が現れて事態は急変。なんと鮎子は、その男子に心を奪われてしまいます。鮎子のヒデホ君への愛がなくなったら、ヒデホ君をきっかけにつながった鮎子と武美の仲はどうなってしまうのでしょうか。それは読んで確かめてみてください!

 

[出版社のサイトへ

 

<全国高等学校ビブリオバトル2016 全国大会の発表より>

こちらも  染谷さんおすすめ

『鴨川ホルモー』

万城目 学(角川文庫)

ホルモーという謎の競技を行う大学生たちの話ですが、よい意味でバカバカしい。出てくる大学生のほとんどがアホ。マンガのようにすらすら読める一冊。ツンデレメガネの「楠木ふみ」がとにかくかわいいです。男子に読んでほしい本です。

出版社のサイトへ 

『ココロ・ファインダ』

相沢沙呼(光文社文庫)

女子高生の複雑な気持ちが若者言葉を使いながら上手く描写されています。ぜひこれは女子に読んでもらいたい。少しミステリー仕立てになっているのもポイントの一つです。

出版社のサイトへ

『楽園のカンヴァス』

原田マハ(新潮文庫刊)

ティムと織絵という2人の美術館で働く学芸員が、アンリ・ルソーの絵画「夢を見た」の取扱権利(ハンドリングライト)を巡って熱い評論合戦を繰り広げるのが面白い。原田さんの美術に関する知識の膨大さが窺えます。

出版社のサイトへ 

染谷さんmini interview

好きなジャンルはミステリー、学園小説。好きな作家は、原田マハ、坂本司です。

 

小学生の頃、本好きだった親友に、はやみねかおるさんの『夢水清志郎』シリーズを薦められ読んだところ、とても面白く、そこから本を読むのが好きになりました。それまでは本は読書感想文を書くために読む堅苦しいものだと思っていました。

 

『暗幕のゲルニカ』原田マハ 

テロや戦争に武器ではなく、筆で立ち向かったピカソの姿に心打たれました。

地元の埼玉県が舞台の本とか、埼玉出身の作家さんの本を読んでみたいです。