高校ビブリオバトル2016

ある日突然25年後に。戻らない時の大切さに気付かされる

『スキップ』北村薫

藤原朋夏さん(徳島県立脇町高校1年)

『スキップ』(新潮社刊)
『スキップ』(新潮社刊)

朝、目覚めた時に、2042年になっていたとしたら、どうしますか。想像してみてください。明日が突然、25年後になっていることを。

 

まさにこんな事態を描いたのが、北村薫さんの『スキップ』です。主人公は一ノ瀬真理子という普通の女子高生。ある日うたた寝をしていた真理子が目覚めると、目の前に知らない女の子がいます。そして突然、「何してるの?お母さん」と言われるのです。なんと、真理子は25年後の世界で、42歳になっていたのです。

 

彼女はその理不尽な状況に戸惑いながらも、25年後の社会を生きていくことになります。最大の山場は、真理子が「実家を見に行きたい」と言う場面です。それに対する娘の反応を見て、真理子は、両親にはもう会えないことを理解します。

 

声を殺して独り泣く真理子。この描写は本当に切なくて、読んでいて涙が出そうになりました。両親に会えないという残酷な現実は、25年という時間が確かに過ぎてしまって、もう戻れないのだということを否応なく真理子に実感させます。そう、真理子は、25年という時間を「スキップ」してしまったのです。

 

タイムスリップの話か、非現実的だと思われたかもしれません。でも、ありえないと片付けることは、私にはできません。

 

私自身、このあいだ高校に入学したと思ったら、もう1年が終わろうとしています。ふと気がつくと時間はあっという間に過ぎてしまって、失った時を後悔する、ということは多かれ少なかれ誰にでもあることではないでしょうか。現に私はもう、入学当初の気持ちに戻れなくなっています。

 

この物語は、高校生の私が無邪気な小学生の頃に戻れないように、お父さんやお母さん世代の人たちが青春時代には二度と戻れないように、誰もが味わう切なさやもどかしさを共感できます。そして、時が戻らないからこそ、今まで平凡だと思っていた日々が、どれほど愛おしいものだったか気づかされ、当たり前の日々に感謝して、もっと一瞬一瞬を丁寧に生きるべきだと学びました。

 

真理子は決して逃げませんでした。それは、覚悟を決めたからです。彼女は25年後の自分自身、桜木真理子として、全力で立ち向かいました。高校2年生の心を持つ真理子は、今は高校教師で、高校3年生の担任。授業はもちろん、部活の指導もこなしたり、学級日誌にも面白いコメントを書いたりして、彼女は桜木先生として見事にやり遂げていくのです。

 

読み進めるにつれて変わっていく真理子を見ると、辛いことや苦しいことから逃げ出したいと思ってしまう自分が恥ずかしく感じました。同時に、作者が『スキップ』というタイトルをつけた意味がわかった気がしました。

 

藤原朋夏さん
藤原朋夏さん

また、はじめは距離を置いていた夫、桜木さんの存在が少しずつ大きくなっていく様子は、清らかで美しく感じました。

 

そしてラストシーン。私は胸が締め付けられ、とても切なくなりました。とても他人事には思えないのです。本を読む、ということはこんなにも素敵な時間を与えてくれるのだと、読書の楽しさを実感させられた本です。この感動をぜひ皆さんと分かち合いたいと思います。

 

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※リンクは単行本

<全国高等学校ビブリオバトル2016 全国大会の発表より> 

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藤原さんmini interview

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