高校ビブリオバトル2016
独りぼっちのハリネズミが葛藤しながら待ち望むのは
『ハリネズミの願い』トーン・テレヘン 長山さき:訳
北原仁くん(山梨県立北杜高校3年)

この本は、臆病で気難しくて自分のハリが大嫌いで、他の動物たちとうまく付き合えない独りぼっちのハリネズミのお話です。
ハリネズミはある日、他の動物たちに向けて手紙を書きます。「親愛なるどうぶつたちへ。ぼくの家にあそびに来るよう、キミたちみんなを招待します。……でも、だれも来なくてもだいじょうぶです。」そう書き加えてしまうんです。
ちょっとおかしくありませんか。だって招待状なのに、「だれも来なくてもだいじょうぶです」なんて書いてしまうんです。その上ハリネズミは、もしも僕がこの手紙を出して本当に誰かが来たらどうしようと考えて、不安でたまらなくなって、今はまだ出すのをやめておこうと思い、手紙を戸棚にしまうんです。それでも、もしもこの手紙を出して誰かが僕の家を訪れてきたら。そんなあり得ない妄想をしては困ってしまうんです。
例えばカメとカタツムリ。カメはハリネズミから手紙をもらったら、「行こう」と言ってくれますが、カタツムリは「今は都合が悪い」と言うんです。「明日も都合が悪い。いや、ずっと都合が悪い。でも、カメ、おまえは都合が良いよな、おまえはいつだって暇な奴だ、おまえだけ行けばいいだろう」。そう言われたカメは甲羅の下に隠れてしまいます。カタツムリはさらに調子に乗って「おまえは自分が何者なのか知ってるか? カメじゃないぞ、自分勝手だ!」とひどいことを言う、っていう妄想をハリネズミがしています。
物語の中で一番足の速いアメリカ野牛のバイソンは、ハリネズミから手紙を貰ったら嬉しくて舞い上がってしまって、「今すぐに行かなきゃ、ハリネズミの気が変わらないうちに!」と思って走り出すんです。どんどん速さを上げていって、やっとハリネズミのお家が見えた時には止まりきれなくなって、お家を一直線に貫いてしまい、ハリネズミは何とかランプにしがみついて助かることができました、っていう妄想もしています。
他にも家具を壊してしまうゾウだったり、ハチミツだけ食べて帰ってしまうクマだったり、誰もいないのに発表したいネズミだったり、歌を聴いて泣かされたナイチンゲールだったり。様々な動物たちを頭の中で思い浮かべては、訪問してきた時のことを考えてみるんです。
でも、ハリネズミは最後に気付きます。「やっとわかった、僕は誰にも来てほしくない。誰も来ないっていうことが僕の安全だ。だからもう誰かを招待するのは止めておこう」。そう思い、手紙を破り捨ててしまいます。もう冬中ふて寝してやろう、冬眠してやろうと思っていたハリネズミのもとにドアをノックする音が…。一体誰が訪れたんだろう、だってさっき手紙は破り捨てたばかり。僕は誰も招待しないぞって決めたのに、ってすごく驚くんです。

僕は、タイトルの「ハリネズミの願い」というのはその子のことだと思いました。きっとハリネズミは、自分から招待しなくても訪れてくれる、そんな優しい誰かを待っていたんだと思います。その子はとっても優しくてお人よしで、訪問の際にはハリネズミの好きなブナの実のハチミツを持ってきてくれる素敵な子です。さて、誰でしょう。ぜひ読んでみてください。
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<全国高等学校ビブリオバトル2016 全国大会の発表より>
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北原くんmini interview

童話やミステリー、哲学書、図鑑などたいていの本は好きです。作家にこだわって読んだことがないので、特別好きな作家はいません。

『ハリネズミの願い』
ビブリオバトルで優勝させていただきました。臆病で気難しくて、自分のハリが大嫌いで、他の動物たちとうまく付き合えない独りぼっちのハリネズミのお話です。
ビブリオバトルでは、決勝の舞台に上がれたら会場に来てくださった方全員に聞いてもらうことができるので、実は上がった時点で若干満足していました。

花言葉が載っている図鑑を読んでみたいです。