高校ビブリオバトル2016

大切なことは、失って初めて気づく

『世界から猫が消えたなら』川村元気

水澤和葉さん(東京都立三鷹中等教育学校4年)

『世界から猫が消えたなら』(マガジンハウス)
『世界から猫が消えたなら』(マガジンハウス)

例えば、いつも仲がいい友達と喧嘩をして、急に一人ぼっちになってしまった時。そういう時には友達のありがたさに改めて気づきます。ありきたりな言葉ですが、大切なことは、失って初めて気づくのです。

 

そのことを胸にストレートに届けてくれるのが、本書です。この本にキャッチフレーズをつけるなら、「何かを得るには、何かを失わなくちゃいけない」という言葉になります。

 

主人公は30歳で、猫と二人暮らしをしている、独身男性です。脳腫瘍が見つかって、わずかな寿命をどのように使うか考えています。そんなある日、家に帰ると、全く知らない男が立っています。その男は、彼と全く同じ顔をしていました。陽気な口調で、アロハシャツに身を包む、悪魔と名乗るその男は、「あなたの寿命は明日で終わってしまいます」と告げます。

 

絶望のどん底に突き落とされた彼に、悪魔が提案します。

「世界から一つ、ものをなくす代わりに、あなたの寿命を1日伸ばしてあげます」。

 

この本の主人公は、この提案に乗ってしまいます。そして、一つ、また一つと世界からものを消していきます。電話や映画館も消されてしまいます。こんなことをしたら、世界がパニックに陥るのではないかと思いますが、実は悪魔の不思議な力で、実際にはあっても周りの人からなかったことにされる、という意味で消えていきます。

 

ある日主人公が消したのは、時間という概念そのものでした。過去も未来もなくなって大変不便に感じますが、主人公にとってはそれよりも自分の命が大事だったのです。

 

そんな中、主人公は改めて猫と向き合います。そこで思い出したのが、家族のことです。幼い頃から父と仲が悪かった主人公。そんな彼に、母親は多くの時間を割いてくれて、自分の時間を削ってまで接してくれていました。それを思い出し、主人公は時間を消したことを悔やみます。それだけではなく、自分が今まで消してきたものにもたくさんの思い出が詰まっていたことを思い出し、後悔します。

 

そしてこんなことを言います。

「世界に何かが存在する理由はあっても、なくなってしまわなきゃいけない理由なんてない」。

すごく深い言葉だと思います。

 

水澤和葉さん
水澤和葉さん

最終的に主人公が消そうかどうか迷うものが、猫です。家族との思い出など、大切なことに気づかせてくれた猫を、主人公は消すのでしょうか。

 

ストーリーに引き込まれる本というのはたくさんありますが、この本はそれだけではなく、自分だったらどうするかと、思わず自分に置き換えて考えてしまう本です。また、猫を他のものに置き換えてみて、自分だったらどうするか考えてみる読み方もおすすめです。自分と同じくらい大切なものが何か考えながら読んでみてください。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2016 全国大会の発表より>

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