高校ビブリオバトル2016
短歌にのせて、友達に今までの気持ちを伝えたい
『うたうとは小さないのちひろいあげ』村上しいこ
狩峰隆希くん(宮崎県立宮崎商業高校3年)

「全国高校短歌大会――通称・短歌甲子園」を題材にした小説を紹介します。短歌甲子園とは、毎年8月に岩手県盛岡市が開催している高校生の短歌の全国大会のことです。
高校1年になったばかりの白石桃子が、この小説の主人公です。桃子はひょんなことから「うた部」という部活に入るのですが、そのことを親友の綾美にだけは言い出せずにいます。さらに、あろうことか桃子は綾美に「私は3年間絶対に友達を作らない」という宣言をしてしまいます。それには後に大きな鍵となる、中学時代に2人に起こったトラブルが原因となっています。
ある日、うた部で短歌甲子園に出場しないかという話が持ち上がります。短歌甲子園に出場するには県の予選を通過しなければならないのですが、ここで問題が一つ生じます。短歌大会の予選に出場するには最低5人のメンバーが必要なのですが、桃子が所属する高校のうた部には部員が4人しかいないのです。そして「どう人数を補充しようか」という話になった時、「綾美を呼ぼう」という案が浮上します。
ここで、桃子と綾美の間に起こったトラブルが重要になってきます。実は綾美は中学時代にいじめを受けていたのですが、桃子は綾美を助けることができませんでした。この経験から、桃子は綾美に一首の歌を贈ります。
「この想い 紙飛行機にして 飛ばしたよ 君に届けよ 不時着でいい」
「不時着でいい」というところが、「完璧じゃなくていい、マイペースでいい」という桃子の綾美に対する優しさが伺える良い歌だと思います。
やがて、桃子率いるうた部は、綾美を交えて無事県の予選に出るのですが、なんと短歌の強豪高校と対戦することになってしまいます。短歌甲子園では、1試合目が「題詠」といって、お題をもらって歌います。2、3試合目が即興の「自由詠」を歌います。そして、最終試合が2人一組で歌う「連歌」で、桃子が上の句、綾美が下の句を担当して戦います。
1試合目は先輩が勝つのですが、2、3試合目で戦いがもつれ、雲行きが怪しくなっていきます。そして、最終試合で桃子たちの出番となります。お題は「うた」。桃子が書いた上の句が次の句です。
「うたうとは 小さないのち ひろいあげ」

この歌を何とかして綾美につなげたい。今までの気持ちを綾美に伝えたいという思いで歌われた句に対して、自分の気持ちをみんなに返したいという気持ちで綾美はペンを握ります。しかし、その時会場から「あれ、あの子不登校だった子じゃないの」という揺さぶりをかけてくる人が現れます。綾美は書こうと思うのですが書けない。一体どうなってしまうのか。というところで、続きは本書を読んでみてください。
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<全国高等学校ビブリオバトル2016 全国大会の発表より>
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『桐島、部活やめるってよ』
朝井リョウ(集英社文庫)
「桐島」が主人公と思いきや、彼に関わりのある人物、そうではい人物が中心となって物語が進められているのが面白い。高校生のうちによんでおく作品と思います。
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狩峰くんmini interview

江國香織が好きです。純文学(小説)、歌集をよく読みます。

中3の頃に読んだ、劇団ひとりの『青天の霹靂』と有川浩の『キケン』が本を好きになったきっかけです。

小6の時の担任が読書に熱心な方で、自分も読んでいました。小川糸さんの『食堂かたつむり』や椰月美智子さんの『しずかな日々』はどうしてか今も印象に残っています。両方とも主人公が大人しく、でも芯を持った人たちでした。

湊かなえの『告白』を読んだ時、初めて作家を目指そうと思いました(中3)。人生に影響を受けたのは、最果タヒの『死んでしまう系のぼくらに』という詩集と、小島なおの『サリンジャーは死んでしまった』という歌集で、自分を見つめ直すきっかけになりました。

『何者』(朝井リョウ著)
人間の意地汚い部分がよく描かれていて、しかもそれが他人事には感じられず、少し怖かったです。就活を描いたり、Twitterが登場したりするなど、今までにありそうでなかった新しさも感じました。

自分は短歌について勉強しているので、評論集など積極的に読んでいきたいと思います。