高校ビブリオバトル2016

お母さんは良い子だったの、子供に誇れるほどに?

『ママがちいさかったころはね…』ヴァレリー・ラロンド クロディーヌ・デマルト:絵 石津ちひろ:訳

竹添そらさん(福岡県・福岡大学附属大濠高校3年)

『ママがちいさかったころはね…』(フレーベル館)
『ママがちいさかったころはね…』(フレーベル館)

小さい頃にこんなこと、言われたことありませんか。「あなた、何してるの!ママがちいさかったころはね…」。

 

この絵本では「…」の部分の内容をいろいろと変えてお話が進んでいきます。そのお話をいくつか紹介しましょう。

 

「ママがちいさかったころはね、あきれるくらいきたないことばをそっとささやいたりもしなかったわ」。

 

おそらく、家族や友人に暴言を吐いたことをたしなめられているという状況を描いた文章だと思うのですが、これだけ聞くとただのお叱り本に思えてしまいます。ですが、この絵本の最大の特色は、文章と挿絵とのギャップにあります。先ほど紹介したお叱りの文章にどのような挿絵が付いているかというと、小さかった頃のママが「おまえのかあさんでべそ!!」と叫んでおり、彼女の言うように「そっとささやいたり」はしていません。

 

もう一つ私の特に好きな場面を紹介します。

 

「ママがちいさかったころはね、ものすごくれいぎただしかったわ。おとしよりにたいしてはとくべつにね」。この場面に付いている挿絵でも、また彼女が何かを言っています。「こんにちはおくさま。たいへんしつれいでございますが、おおきなほくろにけがはえていらっしゃいますわよ」。

 

お子さんに対して「ママがちいさかったころは…」と言っているお母さんもいるかもしれません。ですが、この機会に一度自分の幼少期を振り返ってみてください。そんなに良い子でしたか。子供に誇れるほどに。

 

子供が確認するすべがないのを良いことに、話を盛ったり嘘をついたりすると、思わぬところから本物を描いた挿絵が飛び込んでくる可能性があります。というのも、我が家がそうでした。

 

この本を3歳の時の私にくれたのは、私の母方のおばあちゃんでした。当時3歳にしては割と察しの良かった私は、あることに気が付きました。私の母をよく知るおばあちゃんからこの絵本が贈られたということは、いつも私に怒ってくるお母さんも、子供の頃は私と同じかそれ以上にやんちゃだったのではないかと。

 

それに気付いてからが大変でした。子供は何でも真似したがるもので、以来私は「平成の一休」呼ばわりされるくらい屁理屈をこねるようになり、その後のしつけに大変苦労したとのことです。

 

竹添そらさん
竹添そらさん

この絵本は、「味が変わる3つの瞬間」を楽しんでいただきたいと思います。幼少期にこの絵本を手に取った方にとっては、人生を楽しくするスパイスである嘘・屁理屈・とんちを教えてくれる教本として楽しんでいただければと思います。ある程度年を経てから読み返すとき、お母さんとの思い出と照らし合わせてみるのもなかなか乙なものです。そして、自分に孫ができた時には、愛する孫に贈り、自分の娘や息子が嫌がる顔を見てみたいものです。そんな意地悪ばあさんになれとは言いませんが、生涯を通じて楽しめる絵本だと思います。

 

<全国高等学校ビブリオバトル2016 全国大会の発表より>

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『三匹のぶたの話』

黒田愛(白泉社)

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『三匹のコブタのほんとうの話』

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『3びきのぶたたち』

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「セオリーどおりじゃなくていいじゃない!」そんなぶたたちの声が聞こえてきそうな作品。3びきのぶたたちが物語も画風もこえて大暴れします。読後、「型にはまらなくていいんだ、チャレンジをしよう」、そう思えてくる作品です。

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竹添さんmini interview

私はどのジャンルにも手を出す雑読派なのですが、受験期だったここ1年は、息抜きもかねて絵本をよく読んでいました。お手軽かつ教訓めいたものが読み終わったあとに心に残る・・・、忙しい大人の方にこそおすすめしたいジャンルです。

 

はやみねかおる先生の作品が好きでよく読んでいました。今でも勉強につかれたときや、人間関係に行き詰ったときに読み返しては、昔と変わらぬゆかいな登場人物たちに元気をもらっています。まだまだ卒業できそうにない児童書です。

 

全国大会から帰ってきて、真っ先にチャンプ本の『ハリネズミの願い』を読んでみました。海外文学ならではのおしゃれでかわいらしい言葉選びと、こころがほっとするイラストが印象的です。そして何よりおもしろかったのが、物語全体を通して、この本の紹介してくれた北原君の声で脳内再生されるところです(笑)。

 

絵本から哲学書までジャンルにとらわれずに、広くアンテナをはっていろいろな本をむさぼって生きていこうと思います(笑)。