高校ビブリオバトル2016

不老不死の世界の「生存制限法」。人はどう生きるのか

『百年法』山田宗樹

廣瀬郁実さん(岐阜県立岐阜高校2年)

『百年法』(角川文庫)
『百年法』(角川文庫)

私が紹介する『百年法』は、不老不死になれる技術HAVIによって人間が永遠に生きられるようになった近未来を描いています。HAVIとはこんな技術です。まずある学者が鳩の中から不老化した個体を見つけました。その個体は特殊なウイルスを持っており、そのウイルスを人間に適応化して、摂取することによって不老不死になる、というものです。

 

人間が永遠に生きられるなんて都合の良いことであり、都合の良いことにはやはり裏があります。まずその一つとして、永遠に生きられるということは、古い血が残り続けて新しい血が入らなくなる、ということにもなります。そこで、HAVIを国に取り入れるためには、「生存制限法」という生きる期間を制限する法律を取り入れなければならないのです。この法律がタイトルにもなっている『百年法』です。さらに、HAVIが取り入れられたことによって、人間の死がとても珍しいものになりました。そのため、人間の死をもっと知りたいと考えて自殺願望を抱く人が現れる、という社会現象が起こるようにもなります。

 

この小説では、百年法ができた世界で人々がどのように生きていくのかを描いているのですが、特に印象に残っているのが、蘭子さんという母親とケンくんという息子の話です。この2人はとても仲のいい親子なのですが、蘭子さんは生存制限法が定める死の年齢にもうすぐ達そうとしていました。蘭子さんは死をもう覚悟しているのですが、ケンくんはまだお母さんに死んでほしくないと思っています。ケンくんはお母さんが死ななくてもいいような方法を探し続け、最終的にはその方法を見つけることができたのですが、その方法を実際に手に入れようとした時、ケンくんはふと考えます。「お母さんは本当にその方法を望んでいるのだろうか」と。

 

結局ケンくんはその方法を受け取りませんでした。やがてケンくんは、この真実を蘭子さんに話すのですが、蘭子さんは息子が自分の気持ちを尊重してくれたことを知り、そこで親子の仲がさらに深まりました。また、蘭子さんは最期に安楽死をさせられるのですが、安楽死をする施設で親子の本音が語られており、そのように本音を語り合える家族ってすごく良いなと思いました。

 

廣瀬郁実さん
廣瀬郁実さん

この本を読んで、私はこのHAVIという治療を絶対に受けたくないと思いました。なぜなら、この治療を受けると、周りの圧力によって死ななければならないので、自分がどのように人生を貫くかという点が曖昧になるからです。自分ならこの治療を受けるのか受けないのかを考えながら読むと、とても面白いと思います。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2016 全国大会の発表より>

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