高校ビブリオバトル2016

見てしまった殺人者の日記。わからない犯人に見られている恐怖

『マーチ博士の四人の息子』ブリジット・オベール 堀茂樹、藤本優子:訳

吉水優里子さん(神奈川・鎌倉女学院高校2年)

『マーチ博士の四人の息子』(ハヤカワ文庫)
『マーチ博士の四人の息子』(ハヤカワ文庫)

舞台はアメリカ北部の雪深い田舎町。そこに住む地域一番のお金持ち、お医者さんのマーチ博士、奥さんのマーチ夫人、その二人の息子であるジャック、クラーク、マーク、スターク。この4人、文武両道、容姿端麗、お金持ち。乙女のハートを鷲掴みです。そして、その家のメイド、ジニー・モーガン。この7人で物語は展開されていきます。

 

メイドのジニーがある日、奥様のお部屋でクローゼットをあさっていると、クローゼットの奥に、一つの紙束を発見します。その紙束、なんと「殺人者の日記」なるもので、幼い頃から書き手が自分の快楽のために繰り返してきた殺人について描かれていました。

 

それだけでも大変なのに、その後ジニーはとんでもない一文を発見します。なんと、書き手は「私はマーチ博士の四人の息子の一人である」と言っているのです。殺人者と一緒に暮らしていたなんて! ジニーは恐怖から警察に電話をかけようとしますが、ジニーにはある秘密があり、電話をかけることができません。そこでジニーは「よし。自分で犯人を見つけよう」という決心をします。

 

その日からジニーは自分の日記に自分の推理や4人の息子たちの言動などを記していきます。読者には、はじめのうち、ジニーがルンルン気分、探偵気分で書いているのがわかります。しかし、ある日を境にジニーの日記の内容ががらりと変わります。

 

そのある日、ジニーはいつものように奥様の部屋にこっそり入って、こっそり日記を盗み見ていました。すると前日の日記が、この一行で締められていました。

「親愛なるジニーへ」。

ジニーはハッとします。私は見えない殺人犯に見られていたのだ。そういえばあの日のあいつの目がおかしかった、あいつにあの時見られていたかもしれない、そういえばあの時あそこに入るのを見られた…。ジニーは一気に人間不信に陥ります。

 

その日からのジニーの日記は日々の緊張感、生きている恐怖、また今日も生きていたという安堵、一人で大きすぎる秘密を抱えてしまったという孤独。そういうものがひしひしと伝わってくるものになります。

 

このジニーの日記を読んでいて、私はとても胸が苦しくなりました。その理由について考えてみることにしました。そしてある一つの答えにたどり着きました。私たち自身もジニーなのです。

 

ストーカー事件、SNSの被害、またISによるテロなどがあるため、現代の私たちには、他人の目を恐怖と考えてしまうような機会が多いのではないのでしょうか。そして、他人の目が根本の恐怖として存在するのではないでしょうか。しかし、そんなものを気にしていたら日常、明るく楽しく生きることはできない。そこで私たちは、他人の目の恐怖というものを心の奥の底の底に隠して日々必死に生きているのではないでしょうか。自由に明るく楽しく生きるため、しかたがないです。

 

しかし、この本を読むと、必死で隠してきた恐怖が文章になって出てきている。それと向き合わなければならない。そして私たちはそれを読むことを止められない。私たちはその見えない恐怖について知りたいのです。

 

吉水優里子さん
吉水優里子さん

この本は章ごとに、「試合開始」「ラリー」「バックハンド」「ハーフタイム」などテニスの試合に、ジニーと犯人との日記をなぞらえて書かれています。あるの章の題名は「反則」。このジニーと犯人における緊迫のラリー、それにおける反則とは何を指すのか。そして反則を犯したのはジニーか、はたまた犯人か、それは読んでからのお楽しみです。本物のぞくぞくをあなたへ。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2016 全国大会の発表より>

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本格的に読書を始めたのは中3の春で、とてもおもしろい司書の先生、国語の先生、社会の先生に出会い、オススメの本『額田女王』(井上靖著)を読んだのがきっかけです。

 

小学校の時に気に入っていたのは、『ニ分間の冒険』(岡田淳著)、『ブラックジャック』(手塚治虫著)。

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主人公が18~20才の本を読みたいです。主人公の年齢を自分が超しているとなぜかくやしくなるので。