高校ビブリオバトル2016
動物自治の農場。自らの決まりは守れるのか。ソ連への風刺も
『動物農場』ジョージ・オーウェル 川端康雄:訳
大屋知穂さん(東京都・豊島岡女子学園高校1年)

舞台はイギリスの農場、動物を視点にした物語です。この動物たちは、自分たちの飼い主を農場から追い出し、動物だけの農場である「動物農場」を作ってしまいます。しかし動物がそれはまだまだ序盤。この物語のメインは、農場をのっとった後に、その動物農場の中での生活がどのように変わっていくかという部分にあるのです。
皆さんの学校には校則がありますね。「決まりごと」というのはどこにでもあります。例えば、「人を傷つけてはならない」、「選挙の自由を妨害してはならない」というようなものです。しかし、もし、こういった決まりごとが少し違っていたらどうでしょう。「人を傷つけてはならない、過度には」、「選挙の自由を妨害してはならない、理由なしには」。このような決まりごとのもとでは、何が起きるでしょうか。嬉しい人もいるかもしれませんが、決まりを守らない人が増えると思います。きっと犯罪の温床にもなるでしょう。動物農場の中の決まりごともそうなのです。少しずつ決まりごとが変わっていって、最終的には「動物はほかの動物を殺すべからず、理由なしには」、「動物は酒を飲むべからず、過度には」という決まりごとになってしまいます。それはなぜかというと、これによって得をする動物がいるからなのです。
この本の魅力は、キャラクターがいきいきとしていることです。豚のナポレオンはすごく頭がよく、この農場のリーダーでもありますが、全く決まりを守りません。お酒を飲んだり、ほかの気に入らない動物を殺したり農場から追い出したりといった行動を起こしてしまうのです。そして、このナポレオンと対照的に描かれているのが、ボクサーという名前の力持ちのオス馬です。決まりを全て守り、「わしはもっと働くぞ」、「ナポレオンはいつでも正しい」をモットーに暮らしているのです。この作品では、人一倍一生懸命に働き、ナポレオンの言うことを絶対に聞くボクサーの純朴なところが描かれています。

この本のもう一つの魅力であり最大の特徴といえるのが、世界を風刺したものであるということです。作者は強い政治思想の持ち主で、この本にも政治的意見が込められています。この物語は、ロシアのとくにソ連だったころの独裁体制、理想を外れた共産主義への風刺が込められています。政治、歴史に興味のある人はとても面白く感じると思います。また、本の三分の一が物語の解説となっているので、本編を読んでわからなくても、解説を読めば一般的な解釈がわかるようになっています。
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<全国高等学校ビブリオバトル2016関東甲信越大会の発表より>
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