高校ビブリオバトル2016

「1年後の今日」を生きている男の一途な思いが起こした奇跡

『九月の恋と出会うまで』松尾由美

小松佑圭さん(埼玉県立松山女子高校2年)

『九月の恋と出会うまで』(双葉文庫)
『九月の恋と出会うまで』(双葉文庫)

この本に出会ったきっかけを、この本の書き出し風に言うと「きっかけは、帯に書かれたたった2行の言葉だった」。帯には、「過去を変えてしまった一途な恋、思わず涙が溢れます」。私は、この言葉にひかれてこの本を手に取りました。

 

写真を撮るのが趣味の主人公、しおりさん。実は彼女、前に住んでいたマンションで、お隣さんとトラブルを起こしてしまったのです。そんな時、あるお店で見つけたクマのぬいぐるみに「引っ越しちゃえばー?」と言われたような気がして、彼女はそのぬいぐるみと一緒に、ちょっと変わった条件があるマンションへ引っ越します。

 

ある夜、しおりさんが部屋にいると、壁に空いたエアコン用の穴から、1年後の今日を生きている「平野」という男に話しかけられます。平野は、翌日からの新聞の見出しを次々と当ててみせます。そして、彼はしおりさんに、あるお願いをしました。「しおりさんの隣に住む男を尾行してほしい」、しかも「それもお仕事がお休みの毎週水曜日、ある2人の男がしおりさんのもとを訪れるまで」という期限付きのお願いでした。ではなぜ平野はそんなお願いをしたのか。彼には、しおりさんのために、叶えたいある目的があったのです。それは、一途な思いが起こした、時空を超えた奇跡でした。そして、しおりさんは、自分のために奇跡を起こした平野さんの、低くて少しかすれた優しい声を好きになってしまったんです。そんな平野さんって、いったい誰なんでしょうか。

 

この本のタイトルにある、「九月の恋」から、恋愛小説なのではないかと思う人が多いと思います。ですが、ただの恋愛小説じゃないんです。もちろん普通に恋愛小説としても楽しむことができますが、時空を超えたSF小説、または、しゃべるぬいぐるみの謎、平野とはいったい誰なんだ、と正体を解き明かす、推理小説としても楽しめます。たくさんの楽しみ方がある本です。面白いところは、なんと言っても、たくさん伏線が隠されているところです。読むうちにその一つ一つがわかっていき、最後の「あーそういうことなのか!」という気持ちを味わっていただきたいと思います。

 

もし私の両親が出会っていなければ、私は今ここにはいません。もし私が本を好きでなければ、この本に出会うこともなかったかもしれません。もし私がこの本に出会わなければ、ここで紹介する機会もなかったでしょう。今のところ、私の家にあるクマのぬいぐるみはしゃべりださないし、未来からの声も聞こえてきません。でも、この本を読んで、私の周りは小さな奇跡であふれていることに気が付きました。皆さんにも、この本を読んでたくさんの奇跡を探してほしいなと思います。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2016 関東甲信越大会の発表より>

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今までに読んだ本は心があたたかくなるようなものが多かったのですが、本当は伏線だらけのミステリーが大好きなので、今後私の期待を良い意味でどんどん裏切ってくれるような伏線だらけの本に出会えたら良いなと思います。