高校ビブリオバトル2016
お年寄りばかりの交響楽団に入団した高校教師とロシアのスパイの接点は?
『オケ老人!』荒木源
赤松尚さん(東京都・光塩女子学院高等科1年)

『オケ老人!』のオケとは、オーケストラのこと。私は、小4から高3までのジュニアオーケストラに所属し、ヴァイオリンを演奏しているので、「オケ」というタイトルに惹かれて、この本を手に取りました。
この物語には「オケ老人」が出てくるのですが、私たちのようなジュニアオーケストラに所属する者にとってはまったく対照的な存在です。そのまったく対照的な存在と、彼らを取り巻くストーリーは一体どのようなものなのでしょうか。
まずは、この『オケ老人!』をおすすめしたい理由をご紹介します。
何よりもストーリー展開が奇抜。笑いあり、涙あり、サスペンスあり、恋愛あり、そしてたくさんのギャップが登場し、作品中にも出てくるのですが、まるでドヴォルザーク作曲の『新世界』のような物語構成となっています。
物語は2人の男の語りによって進み、それぞれの物語が交互に登場する形式となっています。その1人、中島明彦という男は、高校教師をしていて、ある時立ち寄った梅が丘フィルハーモニーというオーケストラの演奏に感銘を受け、梅が丘フィルハーモニーに入団しようとするのですが、なんと間抜けなことに間違えて梅が丘交響楽団という方に入団してしまいます。
梅が丘交響楽団には老人がたくさんいます。老人たちは演奏もおぼつかないし、中には酸素ボンベをしていながらトランペットを吹いていたりする老人もいるし、着物を着たまま演奏する老人もいるし、詐欺にあってしまう老人もいるんです。
老人たちの演奏に対する意識がとても低いので中島は愕然としてしまい、想像していたバラ色のオケ生活の夢を見事に打ち砕かれてしまいます。でも、中島自身も大変おっちょこちょいなんです。17万円の大きな防音室を小さなアパートに入れてしまったり、職場内の女性教師に恋をしてしまったり…。
もう一方の語り手の男はロシアのスパイ。日本の国家機密を書いたメモを紛失してしまって、そのメモを探すために危険を冒すという謎めいた男です。

一見何の繋がりがあるのかまったくわからない2つの話が、偶然が偶然を呼んでどんどん繋がってきて殺人事件が起こるかもしれないところにまできます。最後にロシアのスパイが歯を折ってしまいます。それだけ聞くと何が何だかよくわからないんですが、そこにまで伏線がたくさん張り巡らされていて、小説は見事なハーモニーを奏でています。
『オケ老人!』は映画化されます。主演は杏さんで、主人公の中島明彦は女性に変更されています。映画を観る前に原作を読んで、比較してみるのはいかがでしょうか。そうして原作にまた新たな面白みを感じることができると思います。
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<全国高等学校ビブリオバトル2016 関東甲信越大会の発表より>
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赤松さんmini interview

好きな作家は、星新一、湊かなえ。同年代の人たちが出てくる話、謎に包まれて物語に隠されたメッセージを読み取るような話が好きです。

『おちゃめなふたご』『若草物語』は、何回も何回も読んでいました。自分と同世代の欧米の女の子たちが織り成す物語の中の生活に憧れていたからです。実は、今通っている学校を志望した理由の一つに、制服が『おちゃめなふたご』の挿絵に登場する制服にそっくりだからということがありました。

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女子高生によって大旋風が起こる、いわゆるキュンキュンするラブストーリーとは違い、『オケ老人』と同様、音楽が中心になっており、「死」を通じてはかなく散った少女の恋の物語に「時」を考えさせられました。音楽も二度とない「時」を彩る、物語にとてもマッチしているもので、滅多に映画で泣かない私も泣きました。

日本の未来についての論説、特に地球温暖化や環境破壊についての論説など、評論にたくさん触れて教養を深めていきたいです。