高校ビブリオバトル2016
奇抜な発想、特異な人物表現、新しい世界観! 筒井康隆の魅力にあふれる
『傾いた世界 自選ドタバタ傑作集2』筒井康隆
谷田川真光さん(千葉県市川高校1年)

まず伝えたいのは、筒井康隆の作品は理屈抜きに面白いということです。でも、理屈を考えて読むこともとても面白いので、僕が一番好きなこの『傾いた世界 自選ドタバタ傑作集2』という、7つの話が入っている短編集を使って、僕が考えた筒井康隆の面白さを3つの要素に分けて説明したいと思います。
まず1つは、この作品世界を作っている発想の奇抜さです。
2番目に、人物表現の特異さ。
3番目に、読者に虚構と現実の境目を感じさせて新たな世界観、作品世界だけじゃない新たな世界観を創り上げる点。そういうメタフィクション的手法によって、ユーモア、時にブラックユーモアのある笑いを筒井康隆は届けていると思います。
具体的に、まずこの表題作にある「傾いた世界」で作品の発想の奇抜さを紹介します。海上にマリン・シティという都市があるのですが、その底部のバラストにパチンコ玉を用いているというのがすごい。そのせいで流動性があり、どんどんどんどん傾いていく。そこで起こるドタバタを、時に風刺的に時にコミカルに描いています。
「関節話法」という作品は、発声器官によるコミュニケーションではなく関節の音を鳴らすコミュニケーションを発達させた、マザング星というところに赴いた日本の大使が悪戦苦闘する話。そこでは“痛さのある笑い”を取り入れて、読者に新たな何かを提示しています。
2番目の人物表現の特異さでは、「傾いた世界」のイラストの例を挙げます。この傾いた世界に合わせて自分も傾きながら重心を保っている、マリン・シティの女性秘書に犬のように尽くす女の人が出てきたりします。
次に「毟りあい」という作品では、ごく平凡な一般的なサラリーマンが、脱獄囚によって家族を人質に取られます。そして警察の不手際とか、犯人の強情さとかによって、どんどんどんどん狂気的になっていく過程をすごく克明に描いています。
この2つの物語は、僕たちが持っている感情や気持ちを極端にデフォルメさせて、それを新たなフレームでとらえると、こういう魅力的な作品になるということを気付かせてくれました。
3番目のメタフィクション的手法について、特によく表れているのは「空飛ぶ表具屋」という作品だと思います。「空飛ぶ表具屋」では江戸時代に実際にグライダー飛行をした幸吉という人が主人公。幸吉のグライダー作りの夢と挫折を描いていますが、そこに実際に起こった航空事故、例えば自衛隊機と民間の旅客機が空中衝突したという事故を持ってきて、実際の事故と幸吉の半生を交互に描きながら、江戸時代と現代を結んでいるわけです。つまり、橋渡しをすることによって、読者に深い観察をさせ、読者の第三者的な視点を交えた新たな世界観を筒井康隆は構築していると思います。

イラストはしりあがり寿という有名な漫画家が描いていて、これもまたすごく面白いです。この人は『自選ドタバタ傑作集1』という本のイラストも描いていますが、そちらもとても面白いので読んでみてください。
[出版社のサイトへ]
<全国高等学校ビブリオバトル2016 関東甲信越大会の発表より>
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ジャンルはSF、好きな作家は星新一、筒井康隆です。

純文学が読みたい。特に、村上春樹!!