高校ビブリオバトル2016

時空を超えて3人の泥棒が悩める人たちを救う!?

『ナミヤ雑貨店の奇蹟』東野圭吾

内田大輝くん(埼玉県立久喜北陽高校2年)

『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(KADOKAWA)
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(KADOKAWA)

『ナミヤ雑貨店の奇蹟』はナミヤ雑貨店というお店で3人の主人公が不思議な体験をする話です。実は3人は泥棒です。この3人は夜中に盗みをはたらき、朝まで身を隠し、出勤する人たちに紛れて逃げるという計画を立てていました。盗みを入った家の近くの、廃屋であるナミヤ雑貨店で朝を迎えようとしていたのです。しかしこのお店はただのお店ではありませんでした。

 

このお店は元々「ナミヤ雑貨店」の「ナミヤ」という名前から近所の子供たちに「なやみ雑貨店」と呼ばれバカにされていました。そこで店主は本当に悩み相談をすることにしたのです。そのルールはシャッターの郵便口に手紙を入れると、翌日牛乳箱の中に返事の手紙を入れてくれるというものでした。

 

3人の主人公が部屋に隠れていた時に、もう潰れていたはずのお店の人気のないシャッターの外から手紙が入れられます。そして、泥棒である3人が手紙の相談にのっていくというのがあらすじです。

 

この本の面白い点は、雑貨店の中と外で時間の流れが違うところです。雑貨店の中でいくら時間を過ごしても、外へ出ると雑貨店へ入る前の時間とほぼ変わらないのです。

 

このことは潰れたはずの雑貨店に相談がくることと大きく関係しています。また、相談の内容は重いものも多く、オリンピックの選手候補からの手紙や、夜逃げについての相談などもあります。

 

他にも驚いた点として、3人が隠れている時にはもう店主のおじいさんは死んでしまっているのです。つまり3人は店主の代わりに相談を受けているということになりますが、本人たちはそれに気づいていないのです。相談者が店主のおじいさんに相談していると勘違いしているところも面白い点のひとつです。

 

この話は5つの章に分かれていてお互いが深く結びついています。これを読み終わった後にあの章のこの人がここに関係してくるのだと思えるのでとても満足感があります。

 

この本を紹介しようと思った理由は、今まで読んだこともないようなストーリーで印象に残っていたからです。また、返事の手紙によって相談者の心情が変わっていくところなども紹介しようと思った理由です。

 

アドバイスの通りに相談者が動くというわけではありません。3人が考え抜いた厳しい返事も相談者が試練と捉えて全く逆の方向へ進んでしまうということもあります。

 

例を挙げると、オリンピックの選手候補の女性の恋人が重い病気にかかってしまい、彼女は練習をとるか、看病をとるかで悩んでしまいます。恋人は自分のせいで夢を諦めてほしくないと言って応援してくれていますが、彼女は悩みます。そこで彼女はナミヤ雑貨店に相談をします。何回かのやり取りのすえ、ナミヤ雑貨店は次のように返事を書きました。

 

内田大輝くん
内田大輝くん

「オリンピックを目指してどんなに練習したって意味ありません。あなた、絶対に出られません。だからやめなさい、無駄です。迷うこと自体が無駄です。そんな暇があるなら今すぐ彼の所へ行きなさい。あなたがオリンピックを断念したら彼が悲しむ? 悲しみのあまり病気が悪化する? ふざけちゃいけません。あなたがオリンピックに出ない程度のことが何ですか。世界のあちこちで戦争がおきています。オリンピックどころじゃない国だってたくさんあります。日本だって他人事じゃないんです。そのことが今にわかるでしょう。でももういいです。好きにすればいいです。好きにして思い切り後悔してください。最後にもう一度言います。あんたはバカです。」

 

彼女がこの返事を呼んでどのように行動したのかはみなさんが読んで確かめてください。またこのオリンピックの選手候補の彼女は、後に登場する重要な人物と姉妹のような関係で繋がっているのでこの先の物語も楽しめると思います。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2016 関東甲信越大会の発表より>

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好きな作家は西尾維新です。とくに、『鬼物語』が好きです。

 

中学の時に、朝読書というものが毎朝あり、その影響で本をよく読むようになりました。