高校ビブリオバトル2016
ネット時代を予言した、サイバーパンクの元祖であり傑作!
『ニューロマンサー』ウィリアム・ギブスン 黒丸尚:訳
大須賀亮祐くん(東京・京華高校2年)

ものごとには何にでも開拓者がいます。『ニューロマンサー』も開拓者となった1冊です。
中学3年生、受験を控えた迷惑な時期に、父がこの本を持ってきて僕に言いました。
「この本、めっちゃかっこいいから」
本を表現する言葉として「かっこいい」というのはあまり聞いたことがありませんし、これはSF小説です。どっちかというと堀辰雄など文豪系の作品が好きで、空想的なSF小説というのはあまり好きではなかったのですが、僕がこの本を読んだ後の感想を一言で表します。
「かっこいい」
この小説の時代設定は近未来です。ネットワークに世界中が支配されていて、すべての人の脳内には電脳というものが搭載されています。人体とネット空間を直接接続できるものです。
例えば、人の話を真面目に聞いているか聞いていないかを僕の電脳からみなさんの電脳の中に侵入して確かめられます。もしくは、みなさんが僕の脳内に侵入すると、「今日は幕張の東京ゲームショーの最終日。そっちの方に行きたかったな」と思っているということがわかってしまう世界です。
そんな世界の主人公ケイスという男は、コンピューター・カウボーイという仕事についていて、サイバー空間から企業のネットワークに侵入して情報を盗み出しています。そういったヤバい仕事を請け負う間に、ネット空間を支配しようと目論む人工知能と対決する話です。
こういうストーリーや、例えば映画の『マトリックス』のような、人体とマトリックス空間を直接繋いでそこで戦ったりする話は、サイバーパンクと呼ばれるジャンルに分類できるのですが、その最初の小説が本書なのです。
他に例を挙げるとするならば、『攻殻機動隊』というアニメや細田守監督の『サマーウォーズ』。これらの世界観はすべてこの作品からきています。この小説は、サイバーパンクいう物語のジャンルの開拓者なのです。それがこの小説の魅力の1つめ。
そしてもう1つの魅力があります。このSF小説が書かれた時代、SF小説というのはだいたい、核戦争が起き人類が滅びるなどという設定の話が多いのですが、この小説で描かれている状況はネット空間に支配されている今と酷似しています。
みなさんも含め、スマートフォンを持っている人がたくさんいると思います。ネットというものがどんどんどんどん身近に、軽く、薄く、小さく、本当に体の一部になっています。現在のようにネットと人間というものがすごく深く繋がっていく世界をこのSF小説が描いているわけです。

この小説が出版されたのは1984年です。Appleがマッキントッシュを初めて発売した時代。まだネットと人間の関わりというものがほとんどない時代でありながら、もうここまでの小説を書いています。SFとはいえ、すぐ目の前に迫ってきている世界を描いていると言っても過言ではありません。先を予言する作者の洞察力に、僕は「かっこいい」と感動してしまいました。
『ニューロマンサー』という題名は「ニューロマンス」というところからきている造語です。この小説がみなさんの愛する1冊になってほしいと思っています。
[出版社のサイトへ]
<全国高等学校ビブリオバトル2016 関東甲信越大会の発表より>
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[出版社のサイトへ]
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好きな本のジャンルは、歴史小説、社会派小説。作家は山崎豊子、司馬遼太郎。

小学1年生頃に読んだ、物がしゃべる本『おしゃべりさん』(さいとうしのぶ)という本が本好きのきっかけです。

『坂の上の雲』(司馬遼太郎)が気に入っていました。

『沈まぬ太陽』(山崎豊子著)
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『菅仲』(宮城谷昌光)
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