高校ビブリオバトル2016

「生きるって難しい」。けれど大切な人の存在が原動力に

『青天の霹靂』劇団ひとり

尾針 結衣さん(東京都・成城学園高校3年)

『青天の霹靂』(幻冬舎)
『青天の霹靂』(幻冬舎)

主人公の轟晴夫はアラフォーの独身。売れないマジシャン、彼女もなし。そんな晴夫に起きたまさに「青天の霹靂」のような出来事によって、晴夫の人生が変わっていきます。さすが芸人の劇団ひとりさん作。非常にコミカルで、笑いあり涙ありの欲張りな作品になっています。

 

「なんで俺生きてんだ、おれの人生こんなにみじめなのは、おれを捨てて出て行った母親とろくでなしの父親のせいだ」。うまくいかない理由をすべて人のせいにしてしまう晴夫。ある日、父が亡くなったという知らせが届きます。晴夫は、ホームレスとして亡くなった父の姿を思いながら「親父、俺こんな人間になっちまったよ。生きるって難しいな」とぼやくのです。

 

そのとき彼を貫くように突然空から雷が。目を覚ますとそこは昭和48年。なんと40年前にタイムスリップしてしまったのです。そこで彼は偶然にも、若き日の父と母に出会います。晴夫はこのタイムスリップを通じて、「強く望まれて生まれた命」であることを知るのです。絶望の淵にいたのが一変、自分を何より大切に思ってくれる人の存在に気付いたとき、彼はどう変わるのでしょう。

 

晴夫のように「生きるって難しい」と思うことが皆さんにもあると思います。おそらく現代の日本人の大半は、衣・食・住の足りた最低限の生活ができる環境にあります。満ち足りた状態でのこの悩みは、ある意味贅沢といえるかもしれません。ですが私たちはこの「贅沢な悩み」に毎日頭を抱え、四苦八苦しながら生きているのです。

 

私がこの本に出会ったのは今から2年前。当時高校1年生だった私は、新しい環境になかなかなじめない、いわゆる不登校。少し背伸びして買った茶色のローファーも、学校に行かないのでほとんど汚れません。毎朝ドア越しに、「(コンコン)お願いだから学校に行こう」、そんな母の声が聞こえてきた記憶があります。

 

上手くいくと信じていた高校生活もこんなようじゃ、「生きるって難しい」。本当に何度もそう思っていました。ですが、あるとき気付いたんです。毎日聞こえていたはずの母の言葉が涙交じりであることに。普段泣かない母の涙声を聞いたのは、もしかしたらあれが初めてだったかもしれません。その時思いました。この人を悲しませちゃいけない、と。これが私の大きな原動力になりました。

 

晴夫が「すべてを改めて生きよう」と決心したのは、自分を大切に思ってくれる人の存在に気付いたからです。きっと当時の私も、この晴夫の姿に自分自身を重ねていた気がします。出会うべき本に、出会うべき時に出会えた、私は心からそう思っています。皆さんも日常で、「生きるって難しいな」と思うことがたくさんあるでしょう。そんな時、是非この本を手に取っていただけたらと思います。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2016 関東甲信越大会の発表より>

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『薬指の標本』

小川洋子(新潮文庫刊)

誰かの形見から自分の秘めた思いまで、何でも標本にしてしまう不思議なお店が舞台のお話。主人公の淡い恋心はもとより、「私の標本にしたいモノは何だろう」と、想像すればするほど引き込まれる、魅力ある一冊です。

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『その日のまえに』

重松清(文春文庫)

何度読んでも涙を流さずにはいられない、私のバイブルのような一冊です。大切な人の死が訪れる“その日のまえ”にスポットライトを当てて描かれていますが、幼い時に読んだ感想と今になって少し大人の視点からみた感想の違いから、自分の成長を見つめるのも面白いかもしれません。

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尾針 結衣さんmini interview

幼少期より、母が読み聞かせをしてくれていたことが、本を身近な存在と感じる最初の経験だったように思います。

 

小3のときに読んだ『ズッコケ三人組』シリーズ、『怪人二十面相』シリーズや、小5のときに読んだ『バッテリー』シリーズ(あさのあつこ)、『精霊の守り人』シリーズ(上橋菜穂子)は忘れられません。『精霊の守り人』シリーズは夜中の3時まで読んでいました。

 

『きよしこ』(重松清)

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マンガ『トーマの心臓』(萩尾望都)

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古典が好きなので、授業でも学習した『源氏物語』を一から十まで、繙いてみたいです。