高校ビブリオバトル2016

一党独裁政治で管理される近未来の世界

『一九八四年[新訳版]』ジョージ・オーウェル 高橋和久:訳

I.Tさん(埼玉県立越ヶ谷高校2年)

『一九八四年[新訳版]』(ハヤカワepi文庫)
『一九八四年[新訳版]』(ハヤカワepi文庫)

戦後間もない1949年に出版された『一九八四年』には、著者ジョージ・オーウェルが考える未来、1984年の世界での光景が描かれています。この作品の舞台は、オセアニアという国。この世界では、1950年代に核戦争が起こり、1984年にもなお、世界を分断する3つの大国が戦争を続けています。オセアニアは、この大国のうちの一つです。現実の世界では「オセアニア」はオーストラリア近辺の領域を指す言葉ですが、この本の中のオセアニアは、アメリカ大陸、イギリスなども含む非常に大きな国として描かれています。

 

この国の政治体制は一つの政党による一党制で、ひと握りの人が独裁政治を行う寡頭制をとっています。このように聞くと、このオセアニアという国に対して嫌な印象があると思います。しかし、オセアニアは広大な国を築き上げることができました。これはなぜなのでしょうか。

 

この国を治める党が掲げているスローガンは「平和は戦争である、自由は隷従である、無知は力である」というものです。しかし、普通に考えると、「平和」と「戦争」、「自由」と「隷従」、「無知」と「力」は結びつきません。このスローガンで言われていることは間違っているのではないかと感じられます。

 

しかしながら、この考え方こそこの本の中核をなすものなのです。ここで示されているのは、「二重思考」、「ダブルシンク」という考え方です。これは、互いに矛盾した二つの考えをどちらも正しいと自分で信じ込むということ、またさらに、もし信じこんだとして、矛盾していたことに気付いても矛盾していたこと自体を忘れるということです。

 

この考え方はどう作用するのでしょうか。二重思考が可能であれば、どんなことも正当化することができます。2+2が、3にでも5にでもなってしまうのです。オセアニアではこれにより、様々なことをコントロールしているのです。

 

この作品は、戦後間もない1948~1949年に書かれたものです。しかしこの本の中には、世界を滅ぼす方法と世界を統一する方法の両方が書いてあるといっても過言ではありません。そのような時代に、現代に通用するような内容の本を書いたジョージ・オーウェルは、すごいと思います。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2016 関東甲信越大会の発表より>

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