高校ビブリオバトル2016
74歳イコさんとイコさんにしか見えない女の子とのバイク旅
『ラストラン』角野栄子
津田彩花さん(千葉県立柏高等学校2年)

映画『魔女の宅急便』の原作となる小説を書いた角野栄子さんの『ラストラン』を紹介します。主人公は魔法使いの女の子ではありません。なんと、74歳のお婆ちゃんです。
角野栄子さんは、ちょっと面白い人なので紹介します。角野さんは東京の下町生まれ。25歳の時になんとブラジルに2年間旅立ちます。その後も海外で講演を行ったり、小さな車でヨーロッパを9000kmも走ったり、船で地球を半周したりするアクティブな人です。
趣味はブラジルの音楽を聴きながら1人で踊ることです。ちょっと面白いですよね。踊っているところは誰にも見られたくないそうです。そんな角野先生が自分のことを元に書いた小説が、この『ラストラン』なんです。
74歳のお婆ちゃんであるイコさんはある日突然、自分がやり残したことの中でなにができるかということを考えます。イコさんは結婚せず自由気ままに生きてきたので時間だけはあります。そんなイコさんがやりたいこと、それは自分が昔よく乗っていたバイクでラストランがしたいということでした。
いやいや待てよ。74歳のお婆ちゃんがバイクでラストラン? ふざけてますよね。でもイコさんはやりたいと思っちゃったんです。そしてイコさんはバイクを買いに行きます。
「すみません。バイクください」と言っても、74歳のお婆ちゃんにバイクなんて売りませんよね。だから、イコさんは考えて言いました。「孫にあげるからバイクちょうだい」。
結婚していないので孫はいませんが、こうしてイコさんはバイクを手に入れます。イタリア製のライダースーツもネットで買って準備万端。ラストランに出かけようとします。しかし、どこに行ったらいいのでしょう。イコさんは自分の原点である母親の実家に向かってバイクを転がし、ついにたどり着きます。
そこにはなんだか一風変わった女の子がいました。女の子は「ふうちゃん」と名乗りました。赤い水玉のワンピースを着た可愛い女の子です。ですがこのふうちゃん、どうやらイコさん以外の人間には見えないようです。そのふうちゃんが「バイクに乗ってみたい」なんて言うもんだから、イコさんはふたりでラストランをすることにしました。
行く先々で出会う人もなかなかユニーク。ナルシストみたいな男の人だったり、バイクを直してくれる幸樹くんだったり、そういう面白い人たちにも注目してほしいです。
私が好きなのは冒頭の部分です。同じ年くらいのお婆ちゃんに「わたしどもとなりますと、どっか痛いの仕方ありませんよね」「体痛いですよね」などと言われるのですが、イコさんは「馬鹿にしないで」って感じで、「私、あとひとつで83になります。おかげさまでね」と、10歳くらいサバ読んで言うんです。ここがイコさんのサバサバした部分を表していて面白いと思いました。
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<全国高等学校ビブリオバトル2016 関東甲信越大会の発表より>
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