高校ビブリオバトル2016

奇妙な階段島。出る方法は、失くしたものを見つけること

『いなくなれ、群青』河野裕

今 彩音さん(埼玉県立春日部女子高校2年)

『いなくなれ、群青』(新潮文庫nex刊)
『いなくなれ、群青』(新潮文庫nex刊)

物語の舞台は階段島と呼ばれる小さな島。実在はしません。名前の由来は、島の中心に山があって、そのてっぺんに伸びていく長い階段があることです。この階段島の長い階段はどこまでも続いていて、そのてっぺんには魔女が住んでいると言われています。この魔女は話にすごく深く関わってきます。

 

この島には捨てられた人たちが集まります。その捨てられた人たちは、その島から出ることができず、出る方法は唯一、自分の失くしたものを見つけることです。

 

階段島に来た捨てられた人たちは、自分が何を失くしたのかはわかりません。何を失くしたのか、自分はどうしてこの島に来てしまったのかもわからず、それを探していくのです。

 

主人公は、七草と呼ばれる高校生の男の子と真辺由宇という高校生の少女。七草と真辺由宇は実は以前は知り合いでしたが、引っ越しによって離れ離れになってしまい、また階段島で再会します。七草は真辺由宇のことを階段島に来てはいけない存在だと考えていて、真辺由宇のことを何とかして島から帰そうと考えます。

 

七草はネガティブに考えてしまうところがある人です。けれども、そのネガティブにマイナスに考えていくことで、いろいろなものごとを「自分がこう思っているけれど、こうだったかもしれない。でもこうかもしれない。でも自分がそう考えているのは全然違っていてこうかもしれない」などと深く考えていくことができる人物です。

 

一方、真辺由宇の方はポジティブな人間で、島に来た時から「私、どういうふうになっているのか知りたい」と言って、七草や周りの人が「これはこうなんだよ」と説明しても「え?なんで?なんで?なんで?」と、何でもかんでも質問する、小学生みたいな人です。ネガティブな人とポジティブな人で、性格が逆の組み合わせではありますが、すごくいいパートナーとして2人で一緒に事件を解決していくのだと思います。

 

今 彩音さん
今 彩音さん

この本にとても気に入っている言葉があります。七草の友人に、絵本のタイトルである「100万回生きたねこ」というあだ名がついている人がいて、その人の言った言葉です。

 

「風を感じるっていうのはね、つまり移動しているっていうことなんだよ。大きな字で『幸せ』って書いた黄色い旗がどこかにポツンと立っているとしよう。でもね、その旗の下で丸まっていりゃいいってもんじゃないんだよ。そこがどんな楽園でも、満ち足りた場所でも、停滞していると幸せとは呼べない。旗に向かってにじり寄っていく、その移動こそが幸せの本質だ」。

この本には、こんなとても素敵な言葉もたくさん載っています。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2016 関東甲信越大会の発表より>

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