高校ビブリオバトル2016

人の手紙を覗き見できる面白さ

『恋文の技術』森見登美彦

松井ひかりさん(東京都・東京学芸大附属高校1年)

『恋文の技術』(ポプラ文庫)
『恋文の技術』(ポプラ文庫)

手紙は、口では言えないことも素直に語れるもので、便利なツールだと思います。この本は、そんな人の本音が詰まった手紙がたくさん見られる、いや、覗き見できる本です。

 

こんなSNSやメールが発達した時代に「手紙?」と思う人もいると思うのですが、私は手紙がけっこう好きで、人の誕生日ですとか、なにか物をもらったお礼には必ず手紙を書くようにしています。

 

『恋文の技術』というタイトルを聞くと好きな人を絶対に落とせる素晴らしい完璧なラブレターの書き方のような本かなと思う人もいるかもしれません。しかしこの作者は、『四畳半神話体系』や、『夜は短し歩けよ乙女』でおなじみの、少し変わった世界観の作家さんで、手に取ったとき少なくともラブコメは期待できないだろうと思いました。もちろん、登場する主人公は、文才にあふれた爽やか系イケメンで、ラブレターを書くのがすごく上手い、なんていう人では全然ありません。森見先生の本ではおなじみの、京都にいる冴えない大学院生です。

 

この主人公は、大学の教授によって、近くにコンビニがほとんどないような地方での1年間の研究所生活を命じられてしまいます。そしてそんな彼が、地方で、それも携帯やメールなどたくさんのものが発達した時代において、「文通武者修行」という名の「修行」を始めるわけです。この本は、そんな彼が、京都の、彼の親友や食えない先輩、締め切りに追われる森見登美彦という名の作家や、妹、昔家庭教師として教えていた小学生男子などに手紙をひたすら送りつけるだけの小説です。

 

本当に、ただひたすら、彼が人に送った手紙のみで構成されています。1章から12章まで、すべて一人が書いた手紙で構成されています。私たちは、この本を読みながら、彼が送った手紙を通して、何が起きているのか知るという小説になっています。

 

冴えない大学院生がただ人に送りつけているだけの手紙のどこが『恋文の技術』なのでしょうか。私もこの本を読んでいる途中まで思っていました。結論から言いますと、この本に恋文は出てきません。この本に出てくるのは、恋文ではなく、「濃い文」です。主人公は、確かに自分の好きな人に宛てて手紙を書こうとするんですが、それがどうしても書けず、書いたと思えば、29ページにもわたる、壮大な、本当に壮大な「濃い文」を書いてしまうのです。

 

松井ひかりさん
松井ひかりさん

彼が、人に手紙を送りつけていく中で、私たちはたくさんの手紙を読みますが、その中で、人の手紙の面白さが学べると思います。面白いポイントは、やっぱり、普段読めない人の手紙を読むことができることだと思います。手紙で、口では伝えられていないような本音や、「いやちょっとそれ本音言い過ぎじゃないの」、と思えるような記述があったり、「ああ、この人は書く相手によってはこうもしゃべり方が変わるんだな」ということを読めたりするので、手紙の面白さについて知ることができます。そしてこの本の結末で彼はある一つの「恋文の技術」というものを発見します。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2016 関東甲信越大会の発表より>

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