高校ビブリオバトル2016

作家たちの苦悩が聞こえる。〆切の失敗談、言い訳から攻略法まで

『〆切本』左右社編集部:編

西田ひなたさん(千葉県・国府台女子学院高等部2年)

『〆切本』(左右社)
『〆切本』(左右社)

「しめきり。そのことばを人が最初に意識するのは、おそらく小学生の夏休みです」。

 

この文は『〆切本』の前書きの一部です。この本には、誰でも知っている文豪から現代の小説家、漫画家などが〆切に困惑し迷走する姿を描いたエッセイなどが、何と90余編も集められています。

 

どんな有名な作家さんもいろんな〆切に苦悩したことがあるようです。この本の中に入っているのは、夏目漱石や谷崎潤一郎、江戸川乱歩、現代では星新一、村上春樹など。サザエさんの作者の長谷川町子先生の苦悩するエピソードなども入っています。

 

「拝啓 〆切に遅れそうです。」「今夜やる。今夜こそやる。」「ところが忙しい時には眠い。」「お宅のファックス壊れていませんか?」「あぁ嫌だ嫌だ、小説なんか書くのは嫌だ。」

これだけでも文豪たちの苦悩が聞こえてくるようです。今も昔も、そんな気持ちは変わらないのかもしれません。

 

私が初めてこの本を読んだ時、何だか自分に繋がるところがあるような気がして変な笑いが漏れてしまいました。「わかる。あるある」と、ついつい言ってしまいたくなるんです。

 

〆切はまるで敵であるかのようですが、決して敵ではありません。私たちの味方でもあるはずです。だれもが体験したことがあると思いますが、〆切はなによりも課題をいちばん後押ししてくれる原動力でもありますし、〆切を達成した時の爽快感はたまらないものがあります。

 

そうわかっていても、〆切と付き合っていくのはとても大変ですよね。私は、小説や詩を書いて定期的に発行する文学部の部長をしており、ただいま今月末の学園祭に向けて、もういろんな〆切に追われている真っ最中です。そんな時に書店でこの『〆切本』の表紙を見て、「あぁもうこれ買うしかない」と思いました。今では原稿のお供、〆切の相棒です。

 

でもやっぱり〆切が守れない時はあるんです。そんな時にこの本にある、〆切を破られて人間不信になっている編集者の文を読むと、「あぁ書かなきゃ。書かなきゃ」という気持ちになります。

 

西田ひなたさん
西田ひなたさん

人それぞれ〆切があると思いますが、ぜひ、この本を傍らに置いて〆切を相棒としてほしいのです。課題の提出だけではなくて、テストなどに追われる日々や人付き合いなども〆切ということができますし、その積み重ねによって人生は成り立っていると思います。

 

〆切に対しての失敗談、成功法、言い訳する時のアドバイス、現実逃避の方法なども書いてあったりします。私はこの本に出会って本当に〆切を乗り越えられました。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2016 関東甲信越大会の発表より>

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「ピアノの詩人」とも呼ばれた楽聖の一人、ショパン。その彼には、9年間共に生活を送ったジョルジュ・サンドという女性作家の存在が不可欠なものでした。この本は、その繊細で病弱なショパンと変わり者で男装家のサンドという一見真逆な二人の恋愛を手紙や遺された資料から読み解いていきます。370年前の二人の恋模様。この二人が本当に存在していたと思うと、驚きが隠せないほどにときめかされる、最高の恋愛書であり歴史書です。

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『海島冒険奇譚 海底軍艦』押川春浪

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※「青空文庫」で読めます

西田さんmini interview

好きな作家さんは、星新一さん、はやみかおるさんなどです。

 

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『ぼくのミステリ作法』(赤川次郎著)

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来年は、今よりも読書の余裕が少なくなると思いますが、進路についての知識を深めるような本が読めたらいいなと思います。