高校ビブリオバトル2016
死んだあの人にもう一度会いたい。その願いをかなえる
『ツナグ』辻村深月
佐藤栞さん(埼玉県立吉川美南高校2年)

死んでしまった人と生きている人を、一生に一度だけ再会させることのできる、両者の仲介人となる人が、この本のタイトル、「ツナグ」です。カタカナでは書かれずに、漢字の「使者」という字に「ツナグ」とフリガナがふられています。つまり、「ツナグ」とは、使者の役割を持った人なのです。
ツナグという人物は、どのような外見を想像しますか。例えば、霊媒師みたいな人とか、お坊さんみたいな人を思い浮かべたでしょうか。実は、ツナグは、私たちと同い年くらいの、普通の男の子なのです。そして、彼がこの物語の主人公です。
ツナグに依頼をして、死んでしまった人にもう一度会いたいと願う人々には、様々な事情や思いがあります。突然死したアイドルを心の支えにしていたOLさん。老いた母を亡くし母に対して悔やんでいることがある中年の長男。突然親友が死んでしまい、どうしても彼女に会いたいと願う女子高校生。失踪した婚約者を待ち続けるサラリーマン。それぞれの依頼人を主人公に、4つのエピソードとして描かれています。そして、最後の章では、これまで謎だらけだったツナグ自身のことが、すべて明らかとなっていきます。
中でも一番気に入っている話は、主人公アラシと、その親友ミソノという2人の女子高校生の話です。プライドの高いアラシのことを、優しいミソノはいつも立ててくれます。しかし、アラシはそんなミソノのことを、密かに見下すこともありました。自分にないものを持っているミソノに、アラシは嫉妬心を抱き、そっけない態度をとってしまいます。私も、仲のいい友達に、アラシと同じような気持ちを抱きそっけない態度をとってしまうことがあるので、アラシの気持ちがよくわかります。ミソノはある日突然、事故によって亡くなってしまいます。アラシはツナグに、どうしてもミソノに会いたいと頼みます。どうしてそんなに必死なのかというと、アラシは、ミソノに会って確かめなければならないことがあったからなのです。

この小説では、ツナグという主人公が、自分の役割を通じて、他人の人生に深く関わっていきます。しかし、死んでしまった人に会って本当に救われる人ばかりなのだろうか、と自分の仲介という行為に疑問を抱き、葛藤していきます。
依頼人の中に、自分と重なる人物も見つかるはずです。広い世代の人たちにおすすめしたい、私の大好きな一冊です。
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<全国高等学校ビブリオバトル2016 関東甲信越大会の発表より>
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『島はぼくらと』
辻村深月(講談社文庫)
表紙の絵がかわいくキラキラしているところも気に入っている1つです。同年代の高校生たちが出てきて仲の良さに憧れました。島の生活は想像したこともなかったけれど、少し楽しそうだなと思いました。この作品で辻村さんにハマりはじめました。
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『君の膵臓を食べたい』
住野よる(双葉社)
ビブリオバトルの決勝大会で紹介されていたので購入して読みました。主人の名前がラストまで出てこないというのが、今までないことだったので驚きました。また。ヒロイン女の子が自分の病気で亡くなるのではないというラストにも涙が止まりませんでした。普段本を読んであまり泣くことはないけれど、泣いてしまいました。今年一番印象に残った本です。これがデビュー作だなんて信じられません!
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『雪だるまの雪子ちゃん』
江國香織(新潮文庫刊)
雪子ちゃんの行動1つ1つがとてもかわいらしく、小さい頃に読んでから今までずっとお気に入りです。冬になると読みたくなります。雪子ちゃんがアメをたべるように口にいれるバターがとてもおいしそうに思えます。
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佐藤さんmini interview

好きな作家は、辻村深月、森絵都、住野よる

「魔女の本棚」シリーズ(ルース・チュウ著)が好きで、集めていました。表紙がきれいで買うのをとても楽しく選んでいました。外国の女の子の暮らしが書かれているのも面白かったです。

『つきのふね』(森絵都著)
友人関係で悩んでいる主人公と、同じような悩みを持っていた自分を重ねました。前に進んでいく主人公のように、自分も頑張ろうと勇気づけられ、辛いことも頑張ることができました。

額賀澪さんの作品が気になっているので読んでみたいと思います。友人に薦められた乙一さんも読んでみたいです。