高校ビブリオバトル2016

情報端末が脳に埋め込まれた世界 「超」情報化社会を考える

『know』野崎まど

中澤恵実さん(埼玉県立坂戸西高校2年)

『know』(ハヤカワ文庫JA)
『know』(ハヤカワ文庫JA)

最近はスマートフォンを体の一部みたいに手放さず、検索やSNS、ストリーミング、ネトゲーなど、常時ネットに接続し続けている人が多くいます。眼鏡型や時計型などの端末も現れたようです。この小説ではもっと先の情報化社会について書いています。今も情報化が進んでいますが、この小説で描かれるのはもっと情報が増えた時代、「超情報化社会」についてです。この社会ではあらゆる場所であらゆる情報が取得できます。そんな世界では、生身の人間の脳は脆弱すぎました。膨大な情報は処理できないのです。そこで、人工の脳葉である電子葉を脳に埋め込むことが義務化されました。あなたの脳に超小型や超高性能の情報端末が埋め込まれて、神経細胞とつながっていることを想像してください。描かれているのは、そういう世界です。これが「超情報化社会」です。

 

このお話には、キーマンといえる人物が4人います。1人目は情報庁で働く官僚、このお話の語り手となる人です。2人目は、電子葉を実用化させ、超情報化社会の基盤をつくった天才学者です。なぜかこの人自身は電子葉を埋め込んでいません。3人目は、情報通信事業の最大手企業のCEO、敵役っぽい人です。そして4人目は、大きな秘密を抱え込んだ少女、ヒロインです。私はこの少女が登場するあたりから息をするのも忘れるくらい一気に読んでしまいました。

 

「知っている」という言葉の意味が変化してきた、というくだりがあります。ここは、この本の核心に触れる部分です。幼少期から電子葉を使用してきた子どもは新しい意味で使うし、電子葉以前に大人になった人は古い意味でしか使いません。現在の私たちは、学校で勉強してそれを「知っている」というふうに、情報を脳に記憶してそれが知覚できたときに「知っている」と言いますよね。しかし、電子葉がある世界では、脳に記憶した情報を取り出すことと、ネットワークから検索して情報を取り込むことの区別があいまいです。簡単に言うと、覚えて知っているのと、調べてから知ることに差がないということです。これが、新しい意味での「知っている」なのです。

 

中澤恵実さん
中澤恵実さん

電子葉が脳に装着された超情報化社会について読んでいても、私は荒唐無稽には感じず、むしろリアリティーを感じます。それは、既にスマートフォンが体の一部のように普及しており、人工知能が驚異的に進歩しているからでしょう。情報端末が脳内に埋め込まれ、もはやタッチパネルなど触れる必要はなくて、頭の中で操作します。近未来、あり得る話だと思います。人工知能が囲碁の世界チャンピオンに圧勝したことを不安に思う人も多いようです。それは人間と人工知能を対立的に捉えた考え方だと思います。そして、人間と人工知能とどちらが上か、と考えるのです。ですが、この小説では捉え方が違います。人工知能が脳の一部として取り込まれ、人間と一体化しているのです。そんな未来が描かれているのです。これって怖いことでしょうか、それともすごいことなのでしょうか。息を呑むようなストーリー展開、ミステリアスな魅力ある人物たち、そして、未来への期待と不安でドキドキがいっぱいの本です。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2016 関東甲信越大会の発表より>

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