高校ビブリオバトル2016

英雄を支える仲間たちにも魅力

『旅人タラン』ロイド・アリグザンダー 神宮輝夫:訳

丸岡翼くん(栃木県・佐野日本大学高校1年)

『旅人タラン』(評論社)
『旅人タラン』(評論社)

この本を初めて読んだ小学3年生の時、私にはただの英雄譚のようにしか思えませんでした。それはそれで大変面白かったのですが、高校生になった今改めて読み返してみて、これまでに見えなかったものが見えてきました。それは、主人公以外の、ほかの仲間たちの魅力です。主人公は、英雄になるべくしてなったのではない。仲間たちの優しさ、思いやりがあったからなれたのだと気付きました。

 

そんな縁の下の力持ちともいえる彼らですが、私がおすすめしたいのは、2人のキャラクターです。1人目は、フルダーフラムという、元小さな国の王子で、若くして国を治めたり、吟遊詩人を名乗りながら旅を続けたりしている青年です。彼はいつもひょうひょうとしていて、なんだか軽いイメージがあります。そして、仲間たちにあまり腹を割って話さずに、心の奥底を隠しているような気がします。

 

そんな彼を好きになったのには、大きく分けて3つの理由があります。1つ目は、彼の軽快な語り口にあります。ほかの仲間たちとは違った、彼のトントンと刻むようなセリフに、私はどんどんこの物語にのめり込んでいきました。

 

2つ目は、ほかの仲間にはない、大人の魅力です。彼は仲間のうちで一番年上なため、みんなで判断に迫られたり、意見を持ち寄ったりするときなど、ほかの仲間たちとは違った考え方をします。その一貫とした考え方に、私は強くひかれました。3つ目ですが、今まで仲間たちに一線を引いていたと思われる彼ですが、仲間が困難に陥り助けを求めているとき、彼は、今までにない激昂を見せます。そのときの彼の本気が、今までの真に仲間を思う気持ちが、とても感動しました。その感動や熱さはここでは語りきれません。

 

2人目は、ドーリという小人です。いつも毒舌ばかり吐いて周りを怒らせたりします。ですが彼は、持ち前の多彩なスキルで、仲間たちを何やかんや助けています。毒舌ばかりの彼ですが、一度約束したことは必ず守り通す男気があります。たとえ、どれだけ自分がボロボロになっても。たとえ、どれだけ困難なことでも。実は、小人族に伝わるある技ができないせいで、周りから落ちこぼれの扱いを受けています。そのため、自己否定が強い彼ですが、そこで終わりにせずに、毎日、その技を会得しようと努力し続けるのです。その諦めない心は、今でも私の心の支えとなっています。そして、そのいわれをはねのけ、仲間たちと真の友情で結ばれます。そのシーンはとても感動的です。

 

丸岡翼くん
丸岡翼くん

ここで、ストーリーを全く説明しませんでした。それは、読んで確かめてもらいたいからです。どんどん流れ行くようなこのストーリー、読んで損はさせません。人生のうちに、一度は出会っておきたい本です。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2016 関東甲信越大会の発表より>

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知識の幅が広がるような本を読みたい。