高校ビブリオバトル2016

人生が決まる高校入試をぶっつぶす!?正しいのは誰の正義か

『高校入試』湊かなえ 

青木勝之くん(愛知・東海高校1年)

『高校入試』角川文庫
『高校入試』角川文庫

僕は高校入試を経験したことがありません。というのも、中学受験をして中高一貫校に入学したからです。もし不合格だったら、公立中学に進学して高校受験を頑張ろうと思っていたので、中学受験で人生が決まるとは思っていませんでした。

 

しかし『高校入試』に登場する受験生たちは違いました。彼らにとっては、本当に人生が決まってしまう入試だったのです。

 

この物語の舞台は、地元で有名な公立進学校である橘第一高校です。この学校に入ることができれば、将来もしフリーターになったとしても、親にとってはいつまでも自慢の子どもです。でももし入学できなければ、たとえどんなに良い会社に入ったとしても、なかなか正当に評価してもらえません。

 

そんな受験生たちの人生を決める入試の前日、「入試をぶっつぶす!」と書かれた張り紙が見つかります。そして試験当日のなんと試験のまっ最中に、試験内容がインターネット上の掲示板にアップされていたのです。一体誰がそんなことをしているのか。受験生なのか、それとも教師なのか、校内に忍び込んだ部外者なのか。そして、何のためにそんなことをするのか。事件を解決しようとする教師たちに次々と問題が降ってくる、まさに謎が謎を呼ぶ物語です。

 

入試の前日に「入試をぶっつぶす!」なんて張り紙があれば、教師たちの間にはとんでもない緊張感が漂っているのではと思いきや、実はそうでもない教師がたくさんいます。採点作業後のデートのことで頭が一杯になっている先生や、それどころか採点作業そのものを軽んじている先生もいます。

 

採点ミスをして咎められた先生のある台詞を引用したいと思います。「たかだか1点2点のことで、そんなに目くじら立てて責めないでよ」。信じられませんが、橘第一高校にはこんな先生もいるのです。

 

入試で起こる様々なトラブルは、教師たちの良くない部分や学校側の対応の甘さを、次々と露わにしていきます。そういったシーンを見て、僕は「採点ミスなんかで人生が決まってしまったらどうするんだ」という恐ろしさや、「こんな覚悟を持った人が教師で良いのだろうか」という憤り、さらに「こういったトラブルをどうやって解決すればいいんだ」という教師の目線からの焦りも感じていました。

 

青木勝之くん
青木勝之くん

この物語の魅力は、圧倒的な臨場感です。多くの場面で会話がふんだんに使われ、しかも場面ごとに主人公が変わります。だからこそ、現状とは裏腹に思っている部分も確認して共感することができます。多くの登場人物に感情移入し、様々な目線から事件を見ることができるのです。ですから、より鮮明な事件のイメージを思い浮かべることができます。

 

さらにそれらのシーンは、インターネット上の掲示板の書き込みと並行して、時系列順に分刻みで綴られています。これ以上の臨場感を感じられる小説はなかなかないでしょう。

 

それぞれの登場人物が、自分なりの正義に基づいて行動した結果、事件がどんな結末を迎えるのか。そして、結果として正しいのは一体誰の正義なのでしょうか。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2016 東海大会の発表より>

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はやみねかおるさんの「パスワード」シリーズが好きでした。小学生の主人公たちが、名探偵のように事件を解決します。

 

もっとたくさんのミステリーと、いわゆる純文学というのを読んでみたいです。