高校ビブリオバトル2016
羊の皮を被った狼は誰か。緻密に計算された恐怖のラスト
『強欲な羊』美輪和音 装画:杏チアキ、装幀:西村弘美
松田ひな子さん(三重・皇學館高校1年)

この作品には5つのお話が入っています。最初は本のタイトルでもある『強欲な羊』、そして『背徳の羊』『眠れぬ夜の羊』『ストックホルムの羊』『生贄の羊』です。一見短編集のようですが、最後の『生贄の羊』でまさかこんな共通点があったのかと驚くラストが待っています。
さらに、5つの話全てのラストがとにかくすごいです。読んだ後の恐怖とストーリー性の緻密さに、感動と興奮でゾクゾクが止まらなくなります。しかもこの作品は第7回ミステリーズ!新人賞を受賞していて、ミステリーとしては太鼓判が押されています。
まず、この『強欲な羊』のストーリーを少し説明します。あるお屋敷に美しい双子の姉妹がいました。お姉さんの麻耶子はバラのように艶やかな美しさを持ち、一方妹の沙耶子はユリのような大和撫子の美しさを持っていました。そして二人の幼少期からお屋敷に仕える「わたくし」という人物が語りかける形で、ストーリーは進みます。
ある日お姉さんの麻耶子が殺されます。そして「わたくし」が語り始めるのですが、幼少期に妹の持ち物がよくなくなります。お人形、お気に入りのお裁縫箱、果てには飼い犬までも殺されるという形でいなくなり、疑われるのは姉の麻耶子。ある日「わたくし」は麻耶子に言います。
「麻耶子様、沙耶子様が困っていらっしゃいますから、どうかお返しになってください」
すると麻耶子はこう言います。
「どうしていつも悪いのは私なの。どうして誰も沙耶子のどす黒い本性を見抜けないのよ!」。
本物の羊の皮を被った狼は誰なのか。想像もしていなかった真実がそこにあります。
最後の『生贄の羊』は、少しホラーテイストです。主人公の女性が、ある日パッと目覚めるとそこは深夜の公衆トイレ。しかも自分の足が手錠で吊るされています。3つの個室には他にも同じ境遇の女性がいます。そして3人で話し合っていると、一つの共通点が見えてきました。それは「羊目さん」を呼び出したことです。「羊目さん」とは、名前を3回呼ぶと追いかけてくる「学校の怪談」のようなキャラクターで、捕まったら殺されてしまいますが、捕まる前に自分が殺したい人の名前を3回言うと、その人を殺してくれるというものです。

共通点に気付いた時、ずるっずるっと足音が聞こえてきます。一番奥の個室の扉がバンっと開かれてました。そして、女性が叫び声とともに連れて行かれ、次の個室の女性も同じように叫び声を残して消えてしまいます。次は私だ、どうしよう…。この続きは、皆さんの目で真相を確かめてみてほしいと思います。そして、この不気味な羊の世界を味わってほしいです。
最後にもう一度言います。5つの話はラストがとっても面白いです。真実を知った時感じるもの、それは恐怖です。
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<全国高等学校ビブリオバトル2016東海大会の発表より>
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特にファンタジー、ミステリー、青春本、短編集が好きです。
好きな作家さんは、赤川次郎、瀬尾まい子、田中芳樹、星新一などです。

小学校の頃、学校の図書室で『黒魔女さんが通る!』という本に出会い、本のおもしろさに引き込まれていきました。長編小説を読んだのはこれが初めてで、それからは、はやみねかおるさん等、図書室にある児童書全般を読みあさったのを覚えています。

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