高校ビブリオバトル2016
第二次大戦下のベルリン、ヒトラーと日本軍人をめぐる壮大なストーリー
『ヒトラーの防具』帚木蓬生
田上凛太郎くん(大阪・明星学校2年)

防具といえば、ラグビーや剣道などのスポーツで身を守るために身に付けるもの。表紙には剣道の防具が描かれています。ヒトラーと剣道。一見すると全く結びつかないように思えますね。これらが複雑に絡み合い、壮大なドラマが描かれるのが、本書の見どころです。
主人公は、ドイツ人を父に持つ陸軍軍人です。父親譲りの堪能なドイツ語を生かして、大使館付きの武官としてドイツ・ベルリンにやって来ました。
主人公とその親族を除けば、登場人物はほぼ実在の人物となっています。歴史に忠実であることが、この本の特徴です。
当時、日本は医学などに優れたドイツに対して憧れを抱いていました。第一次世界大戦でドイツは大敗を喫し、多額の賠償金を背負うことになりましたが、そこから短期間で立ち直ったことは、その憧れを一層強めることになりました。その立ち直りを指導したのがヒトラーです。
主人公も最初はそのような憧れを持っていたのですが、実際にドイツへ行ってみると、ユダヤ人に対する迫害などの片鱗が見えてきました。主人公はそれに同意することができませんでした。
当時日本はドイツと同盟を結ぼうとしていました。同盟というのは国家の運命を握るものです。このような危険な国とは同盟を結ぶべきでない、と主人公は考えました。しかし、史実の通り、日独は同盟を結び、戦争に突入します。戦争が進み、日独が次第に追い詰められる中、ベルリンへの空襲によって、主人公は親しい人々を亡くしてしまいました。
そのような状況の中、主人公はヒトラーへの信頼を失い、自分自身も追い詰められていきます。そして、彼は一つの大きな決断を下します。それは、歴史を揺るがしかねない大きな決断です。その結末は史実とは大きく異なります。

第二次世界大戦中の日本軍人を通して描かれる、臨場感とリアリティにあふれた先の読めないストーリーは、歴史が好きな方はもちろん、そうでない方も、ついつい時間を忘れて読みふけってしまうと思います。そして、主人公の葛藤と歴史の残酷さに、大いに考えさせられるでしょう。ヒトラーと防具の関係については、読んでからのお楽しみです。
[出版社のサイト]
<全国高等学校ビブリオバトル2016 関西大会の発表より>
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小学5年の頃に、教室にあった、『ズッコケ3人組』(那須正幹)を読んだことから、小説の面白さに気づく。これまで本といったらマンガ(ドラえもん)しか読まなかった。『ズッコケ3人組』は、児童向けなのに、実験や悪徳商法等、社会問題を上手に扱っている。かと思えばSFもある。なかなかに面白いシリーズ。今でもたまに読みたくなる。

やはり本で言うならが、『ヒトラーの防具』。歴史(特にWWⅡ辺りの)に興味があっただけに、そのストーリーのリアリティさにひかれた。もちろんそれだけではない。書き出したらココには収まらないだろう。