高校ビブリオバトル2016

辞書づくりを通して描かれる言葉に込められた思い

『舟を編む』三浦しをん

大谷真寛くん(和歌山県・開智高校2年)

『舟を編む』(光文社)
『舟を編む』(光文社)

本書は、辞書を作ることと、それに打ち込んだ人々の物語です。なぜ辞書なのに「舟」なのでしょうか。それは次のように紹介されています。

 

「辞書は言葉の海を渡る舟だ」「ひとは辞書という舟に乗り、暗い海面に浮かびあがる小さな光を集める。もっともふさわしい言葉で、正確に、思いをだれかに届けるために。もし辞書がなかったら、俺たちは茫漠とした大海原をまえにたたずむほかないだろう」「言葉が氾濫しているこの世界で、人と思いを共有する。そのために辞書を作るのだ」と。

 

辞書といえば、小学校の調べ学習などで嫌々開くもの、というイメージが非常に強かったですが、この本を読んで辞書に対する思いが変わりました。

 

辞書は、出版社の中にある辞書編集部という部署で作られます。そこで作られる辞書には、作る人々の辞書に対する思いや、言葉に対する世間の思い、ある言葉を調べた人が受け取る思いなど、様々なものが込められています。

 

例えば「恋愛」という言葉は、新明解国語辞典第五版では「特定の異性に特別の愛情をいだき、高揚した気分で二人だけで一緒にいたい、精神的な一体感を分かち合いたい、出来るなら肉体的な一体感も得たいと願いながら、常にはかなえられないで、やるせない思いに駆られたり、まれにかなえられて歓喜したりする状態に身を置くこと」と書かれています。この説明を書いた人に、何かあったのでしょうか。

「特定の異性」と限定するのはどうかと思いますが、この説明からだけでも、辞書というものが人々の思いを込めて作られたものだということが伝わったと思います。

 

辞書を作るには10年以上の時間も、またお金もかかります。そのため、出版社内では「金食い虫」と呼ばれていました。そんな中、松本先生という監修者と編集部員が、辞書が作れなくなるのでは、という危機に陥っているところから物語が始まります。そして、会社の中で辞書を作る熱意を持った若い人間がいるか探し、馬締(まじめ)という男性が見つかります。彼はその名の通りとても真面目な人間です。

 

大谷真寛くん
大谷真寛くん

このビブリオバトルは「人を通して本を知る、本を通して人を知る」というのがテーマだと関西大学の副学長がおっしゃっていましたが、そのような営みには言葉の存在がとても大切だと思います。言葉の大切さを知ることができるのが、この本です。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2016 関西大会の発表より>

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小説はラブコメからミニタリーまで何でも読みます(ホラーは苦手)。有川浩先生が大好きです。全ての作品で先生の想いを感じることができます。とりわけ、『図書館戦争』は僕のバイブルです。

漫画『ニーチェ先生』です。ただただ面白かったです。主人公が無表情でも笑いにできるところに興味があります。