高校ビブリオバトル2016

大学の文系・理系の研究者が挑む、ドーナツの穴。これも学問だ!

『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』大阪大学ショセキカプロジェクト編

武村美子さん(奈良県立奈良高校1年)

『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』(大阪大学出版会)
『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』(大阪大学出版会)

「ここにドーナツがあります。このドーナツを、穴だけ残して食べるにはどうすればいいでしょうか?」

こんな質問、ふざけているみたいですね。しかし、この問題に真摯に向き合った人たちがいます。大阪大学の研究者たちです。本書は、大阪大学の学生たちが、教員たちから原稿を集めて作った本です。

 

様々な分野の学者たちが、専門知識を駆使してドーナツを見つめます。例えば、座標空間にドーナツを置いてしまう数学者もいれば、「神が作った概念としてのドーナツはなくならない」と主張する哲学者もいます。

 

特に面白かった章を紹介します。それは、工学分野からの挑戦です。ドーナツの穴の周囲を、できるだけ薄くなるように周りから削っていき、ドーナツの穴だけを残したと主張しようというものです。旋盤加工が良いか、フライス盤加工が良いか、はたまた、レーザーで熱を加えるのが良いか。結果、ドーナツのふわふわ感を犠牲にして、樹脂を付けて固めることで、数マイクロメートルの薄さまで削ります。最終的にはナノテクノロジーまで持ち出して、見事お題に答えてみせました。専門用語も多いのですが、イラスト付きでわかりやすくなっています。

 

もうひとつ面白かったのは、医学博士が人間の精神について語っている章です。「私たちは一丸となって、ドーナツの上を歩いていると考えてみよう。どこまで歩いても道は続いている。ドーナツのかなたに夕日が沈み、ドーナツの地平から朝日が昇ってくる。私たちはドーナツの上で生まれ、毎日歩き続け、そしていつかドーナツの上で命を終える。私たちは限界あるモノとして生きている。ドーナツの上の道は無限に続いている」。

 

この章は美しい表現であふれており、何度も読み返しました。

 

他にも興味をそそる章はたくさんあります。食品加工や脱臭などに用いられるドーナツ型有機化合物について語り続ける学者や、人口問題とドーナツ化現象について思いをめぐらす経済学者など、もはやドーナツを食べることなどそっちのけの人もいますが、そこもまた読んでいて楽しいところです。

 

武村美子さん            
武村美子さん            

 「ドーナツの穴だけ残して食べる」というのは、もともと、インターネット上で盛り上がった話題です。その話題に全力で取り組む専門家たちは本当にかっこいいなと思いました。先生方は、ふだんもっと難しい研究をされていると思います。その時も、ドーナツの穴の行方を探し求めるような輝く瞳で真理を追究しているのかもしれません。

 

学問の世界が身近に感じられ、何よりおいしいドーナツが食べたくなる本書。学生たちによる、世界のドーナツに関するコラムも面白いです。私も、ドーナツの穴がそこにあるのかないのか、わからないものを見つめることができて本当に楽しかったです。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2016 関西大会の発表より>

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