高校ビブリオバトル2016
ユニークな殺し屋たちが東北新幹線でバトル!?
『マリアビートル』伊坂幸太郎
神野キョーコさん(神戸学院大学付属高校1年)

物語は東京から盛岡まで走る新幹線の中で殺し屋たちが繰り広げるバトルエンターテイメント。新幹線の中のバトルといっても、ハリウッド映画みたいに銃弾が飛び交う派手なアクションではなくて、他の乗客に気付かれないようにそーっと殺し合うという設定です。
そーっと殺し合うって、盛り上がりに欠ける? 答えはノーです。何度もハラハラしたり、ドキドキしたり、イライラしたり、感情を揺さぶられまくります。
それと同時に、仕込まれた大量のネタをテンポよく回収しつつ、読み進められる感じがとっても気持ちいいのです。「何か起こるでー」とさりげなくほのめかされ、読み進めていくうちに「こうなったか」と見事に着地します。
では、もう少し具体的にお薦めのポイントを3つお話しさせていただきます。1つ目のポイントは登場人物のキャラの面白さです。
妙に文学通の蜜柑と、きかんしゃトーマスが大好きな檸檬のコンビ。実は腕利きの殺し屋です。不幸キャラでイケメンな天道虫という殺し屋は、あり得ないほど鈍くさいのですが、ハラハラの展開の中で和みを与えてくれます。基本的に弱気で、追い込まれるまで本領を発揮しません。
他にもまだまだたくさんの殺し屋が出てきます。日本にこんなに殺し屋がいるのかというくらい東北新幹線に集結してきます。
殺し屋ではない重要な中心人物が、中学生の王子です。一見は誰が見ても好青年なのですが、殺人鬼の心を持っています。サイコパスなので人の痛みがわからない。そんな王子は、この本の中で幸運に恵まれます。
いろいろ出てきましたが、結局誰が主人公なのか断定できないんです。それも面白いですよね。
2つ目のポイントは殺し屋たちが交わすユニークな会話。文学通の殺し屋蜜柑とトーマス通の殺し屋檸檬の、一見頭の悪そうなやり取りがとてもハマります。伊坂幸太郎は馬鹿なのかと疑ってしまいそうになるくらいです。でも2人がトーマスキャラの性格について語り、ドストエフスキーの小説を暗唱するシーンがかなり奥深いんです。
王子のセリフは最悪すぎ。心に残ってザワザワします。殺し屋より殺し屋っぽい中学生が話すセリフはある意味、お見事です。
3つ目のポイントは続編や番外編といった次につながる小説が期待できるということです。ちなみに『マリアビートル』には、以前に書かれた『グラスホッパー』の殺し屋たちが友情出演しています。
『グラスホッパー』は映画化されていて、主人公を生田斗真さん、殺し屋役を山田涼介さんが演じています。きっと『マリアビートル』も映画化されるので、仲間で『マリアビートル』を読んでキャスティングごっこをすると盛り上がること間違いなしです。

この小説は渋い殺し屋小説ではなく、またサスペンスでもなく、ただのエンターテイメント小説でもありません。いろいろなジャンルを組み合わせて、練りに練ってちょうどいいところだけを抽出した新種の小説。グループでいう嵐、料理でいうバイキングのように何でもありのいいとこどりで、みんなが主役級で夢を与えてくれます。
私は人生の中でいちばん面白いと思える小説に16歳にして出会ってしまったかもしれません。伊坂さんならではの絶妙な臨場感をぜひみなさんに味わっていただきたいと思います。
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<全国高等学校ビブリオバトル2016 関西大会の発表より>
こちらも 神野さんおすすめ

『模倣犯』
宮部みゆき(新潮文庫刊)
文庫本で5冊まであるのですが、ドロドロの展開なのに先々読みたくなります。サイコパスで、殺人を演劇のようにする犯人が、猟奇的でこわすぎます。家族を殺された登場人物たちの会話は、人と人がお互いに傷をかかえながら支えはげましあう強さを感じました。
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『死神の浮力』
伊坂幸太郎(文春文庫)
やはり登場人物のキャラが最高です。主人公の死神が、いい仕事をします!ずっと生きているから、参勤交代にも何度か参加したことがあるようです。暗い話なのに、死神のおかげで本の中の空気がなごみます。
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『なぜかまわりに助けられる人の心理術』
DaiGo(宝島社)
今まで人につくして好かれようとしたり、人の気持ちを察したりする生活をしていたけれど、それではただの「良い人」、つまり「どうでもいい人」になってしまうんだ!とスムーズに生きるための考え方を教えてくれます。
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神野さんmini interview

伊坂幸太郎さん、木下半太さん。料理本も好きです。

「ラッセとマヤのたんていじむしょ」シリーズ(マッティン・ビードマルク、ヘレナ・ビリス:著)や、『チョコレート工場のひみつ』などロアルド・ダールさんの本が好きでした。「怪盗レッド」シリーズも好きで何冊も読みました。

映画『ショーシャンクの空に』と映画『ツレがうつになりまして』
両方とも感動しました。終わり方がすがすがしくて、自由に広い心を持って生きようって思えます。

ジャンルを問わず、いろんな本が読みたい。読みごたえがある小説や、スーと入ってくる自己啓発本など。