高校ビブリオバトル2016
異形となってしまった怪人たちとライダーの苦悩に満ちた人間ドラマ
『小説 仮面ライダーファイズ』井上敏樹
乾剛樹くん(兵庫・関西学院高等部3年)

みなさんは特撮作品を見たことがありますか。特撮とは、最近では『シン・ゴジラ』に代表されるように、実写で怪獣やヒーローの様子を描く映像作品のことです。
今回僕が紹介するのは、今年で45周年を迎える『仮面ライダー』シリーズの1作品を小説化した、『小説 仮面ライダーファイズ』です。
なぜそのような子どもっぽい本を紹介するのかとお思いになるかもしれません。しかし、実はこの『仮面ライダーファイズ』という作品はもともとテレビで放送されていた時から大人向けに作られたような部分があったのです。小説版ではその要素がさらに強くなっています。
仮面ライダーシリーズというと、ヒーローが怪人をバタバタと倒していくというイメージがあるかと思いますが、この小説では人間同士の関係に重点が置かれています。この本を読む上でお勧めしたいのは、「怪人」に関する設定と、人間描写です。
ヒーローである主人公は全くヒーローらしくなく、口は悪いし、ヒロインともよくケンカします。小説は主人公視点で描かれておらず、周囲の人物の視点から見た主人公像が描かれています。そのため、主人公のその時々の本当の心情はわかりません。そこに、主人公の胸の内を想像する楽しみがあります。

また「怪人」というと、知性を持たず、集団で襲ってくるというイメージがありますが、この作品の中では個々の怪人が、死んだ人が生まれ変わるという形で登場します。彼らの心は人間のままですが、怪人になることで、身体は強い力を持ち、殺人衝動に駆られるようになります。怪人は普段、人間として社会に溶け込んで生活しています。そのため、彼らと周囲の人の関係も描写されており、それゆえの苦悩も描かれています。本書は10年前に発売されたハードカバー版に後日談が書き足された文庫版なのですが、10年前に発売された際の副題は「異形の花々」でした。怪人たちは文字通り、異形となってしまった人々なのです。
こういった怪人たちとライダーをめぐる、苦悩に満ちた人間臭いドラマが本書の魅力です。ぜひそういった点に注目して読んでみてください。
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<全国高等学校ビブリオバトル2016 関西大会の発表より>
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