高校ビブリオバトル2017

純情ヤクザが鉄砲玉に。ネット民は純平を止められるのか

『純平、考え直せ』奥田英朗

小池健太くん(埼玉県立春日部高校1年)

『純平、考え直せ』(光文社文庫)
『純平、考え直せ』(光文社文庫)

歌舞伎町の下っ端ヤクザ・坂本純平21歳が物語の主人公です。ある日、純平は親分に呼び出され、「純平、お前鉄砲玉をやらないか」と頼まれます。鉄砲玉というのは、敵の組のボスを暗殺し逮捕される代わりに、出所後に組内で一定の役職が与えられるという役割のことです。純平はその頼みを引き受け、最終的に鉄砲玉になれたのかどうかというのがこの物語のあらすじです。

 

皆さん、ヤクザの抗争って残酷なイメージしかないですよね。また、このあらすじを聞いてなんだか単純な物語なのではないかと思われたかもしれません。しかし、実際にはこの物語は最後まで笑うことができ、読むと心が温まり何かを考えさせられるような奥の深いものになっています。この作品の素敵な点をいくつか紹介します。

 

まず、主人公の純平が、本当に良い人柄をしているのです。純平は仕事を引き受けたことで、決行までの3日間に、ヤクザになってから初めての休暇をもらいます。さらに、その休暇で使える十分なお金ももらいます。そして、純平は最後の3日間のシャバ生活を贅沢に使おうと思うのですが、駅前の安い焼肉食べ放題や回転寿司、またカプセルホテルなど、全然贅沢ではない場所にばかり赴くのです。このように贅沢ができず、空回りをしている純平を見ているだけでも面白くて可愛げがあるのですが、それだけではなく、彼は情に厚かったり女の子に弱かったりするなど、様々な側面を持っています。このような愛すべき人柄を持つ純平を見ると僕も友達になりたいと思います。

 

次に、そんな純平と並行して、純平の行動がなぜかネット掲示板でネタにされ、コメントによる会話がなされているという、サブストーリー的な部分があります。純平は3日間の休暇の中で多くの人に出会い、アドバイスをもらいます。その中の1人の女の子が、純平に暗殺をやめてほしいという意図で、ネット掲示板を立てるのですが、この掲示板が炎上してしまいます。

 

しかし、この炎上した掲示板の中にも「純平くん、君はまだ若いんだから考え直しなさい」というような、彼に親身になってくれているコメントが存在し、人の温かさを感じることができます。このようにネット掲示板を活用するような現代的な内容も、奥田英朗さんの作品の魅力です。

 

また、早稲田大学の元教授なのにグレてしまったお爺さんなど、個性的な登場人物が3日間の中でテンポ良く登場し、つい一気読みをしてしまいます。3日間でたくさんの人に出会い、たくさんのアドバイスをもらった純平。3日後、ターゲットは目の前。純平は引き金を引いたのでしょうか。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2017 全国大会の発表より>

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小池くんmini interview

ファンタジーが好きです。普通の生活とかけ離れた体験ができることが、面白くてたまらないですね。

 

お気に入りは、メアリーポープ・オズボーンの「マジックツリーハウス」シリーズです。ハリー・ポッターとファンタジー特集で本屋の棚に並んでいたのを手に取って、そこからどハマりしました。

 

『氷菓』(舞台は共学です!)を読んで、気の合う男友達が欲しい!!と思って男子校に来たんですけどね…。色がないことに今になって気が付きました。

 

最新版の『広辞苑』です。どんな言葉が増えたのか、今探しています。フォルムが黒くてかっこいいというのが印象に残っていますね。

 

色恋のお話は今まで読んだことがなかったですね…。これから恋愛小説を読んでみたいです。