高校ビブリオバトル2017
3人の少年とお爺さんとの関わりから、「生死」とは何かを考える
『夏の庭 The Friends』湯本香樹実
種 香夏さん(国立米子工業高等専門学校[鳥取] 3年)

人はなぜ、死ぬのが怖いのでしょうか。
死ぬのが怖いのは、当たり前のことだと思われるかもしれませんが、これは死というものが何なのかがわからないからだと、私は思います。死ぬのが何なのかを考え始めた時に、どんどん怖くなって、考えるのをやめてしまうのです。しかし、私はそうやって考えることを途中でやめてしまうのはもったいないことだと思い、考え続けています。でも、いまだに死が何なのか、わかりません。
高校3年生の私がこうなのですから、私より年下の人たちにとっては本当に難しい問題であり、この本の中に出てくる小学6年生の3人の男の子たちにとってもそうだと思います。
この話には、木山くん、河辺くん、山下くんという3人の小学6年生が登場しますが、山下くんが学校を休んで3日目になった日から、物語は始まります。休んでいる理由はお葬式なのですが、この3人はそれまで身近な人の死に立ち会ったことがありませんでした。そのため、「死」がどういうものなのかがよくわかりません。山下くんが学校へ来た日、河辺くんが山下くんに向かってこう言います。「おい、お前のお婆さん死んだんだってな!」。物語の語り部である木山くんは、お葬式に行った山下くんに対して慰めの言葉をかけるべきではないかと心配するのですが、山下くんは平気な顔でお葬式の話を2人にします。
ただ、山下くんにとって死んだ人を初めて見たことは相当ショックだったらしく、作中ではこのように語っています。「おばけはいる。ただね、おばけっていうと、なんていうかふわふわ軽いものみたいに思ってたんだ。けどね、きっと重いんだよ。ものすごく。砂を詰めた袋みたいに重い」。
この話を山下くんから聞いた数日後、河辺くんは2人にある相談を持ちかけます。「近所に死にかけのお爺さんがいる。そのお爺さんの家を観察して、お爺さんが死ぬのを俺たちの目で見届けてやろうぜ」。
河辺くんに押し負け、3人はお爺さんの家を見に行くことになります。すると、夏の暑い時期にお爺さんの家の庭は荒れ放題で、草は長く、ごみ袋が大量に溜まっており、3日に一度くらいしか買い物に出ないという様子でした。3人が観察を続けるうちに、お爺さんも監視されていることに気づきます。お爺さんは、初めは嫌な顔をするのですが、次第に意地になり、見られているくらいなら頑張ってやろうと思って、毎日買い物に出かけ、庭の掃除をし始めます。やがて、3人にとって、お爺さんは大切な存在になり始め、お爺さんの家に足しげく通い、挙句の果てにお爺さんの家で草抜きを手伝ったり、スイカを食べたりするようになります。

このように、3人の少年と1人のお爺さんが関わっていくのですが、少年たちはお爺さんとの関わりを通してそれぞれの悩みを超えていき、お爺さんは少年たちと出会ったことによって生きる活力が湧いてくるという物語になっています。
小学6年生の3人が生死に向き合い、一生懸命考え、やがてどんなことを見つけるのか。とても難しい問題ですが、皆さんにこの本を読んで一緒に考えていただきたいと思います。
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<全国高等学校ビブリオバトル2017 全国大会の発表より>
こちらもおススメ

『浜村渚の計算ノ-ト』
青柳碧人(講談社文庫)
数学を筆頭に理系科目が学校からほとんど消えてしまった日本で、数学を用いたテロが起こります。警察にも数学が得意な人がいない中、協力要請をしたのは1人の少女。この数学好きの少女、浜村渚が主人公です。小説で数学に触れるといつもより数学が身近に感じられます。数学が苦手な人でも大丈夫。渚ちゃんがわかりやすく解説してくれます。数学楽しい!って思える本です。
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『コンビニたそがれ堂』
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話したり、書いたり、読んだり、聞いたり。普段何気なく使っている言葉の意味、正確に知っているかと問われると自信を持って知っているとは言えません。この本は辞書を作っている人たちの話です。辞書を作る人たちの情熱、苦労、辞書ごとの個性。辞書がどんなに素晴らしいものなのか、この本で初めて知りました。まるで青春部活物の小説を読んでいるような気持ちで楽しめる爽やかな作品です。
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種さんmini interview

ファンタジー、恋愛モノ、ミステリー、SF、純文学、詩、俳句、短歌などが好きです。好きな作家は、有川浩、東川篤哉、星新一、夢野久作、夏目漱石、中原中也、草野心平、太宰治、森絵都、村山早紀、江戸川乱歩、湊かなえ、芥川龍之介、梶井基次郎、八木重吉、俵万智、石川啄木、河野裕子、宮沢賢治、西澤保彦。

お気に入りはまず、「ハリー・ポッター」シリーズ。言わずと知れた名作です。重い本ですがよく持ち歩くので本を入れていた袋がボロボロになりました。次に、「妖怪アパートの幽雅な日常」シリーズ。妖怪の出るアパートに引っ越した主人公の話です。「シャーロックホームズ」シリーズ。小学校の図書館に置かれ始めた頃に読んでいたので、新刊コーナーから1番に取るのが楽しかったです。

・「ハリー・ポッター」シリーズは私の人生の8割占めています。こんな時ハーマイオニーなら、ロンなら、ダンブルドアならどうするかな、と登場人物ならどうするか考えて、誰みたいになりたいか考えながら人生の岐路の選択をして生きてきました。
・ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』は、いい学校に入るために勉強のみをさせられてきた男の子の話です。私も勉強が取り柄で他に何もできることがない人間だったので、この本を読んで衝撃を受けました。自分には他にもできることが必要だと思い、その時からいろいろなことに挑戦しています。
・太宰治の『人間失格』は読んだ後辛くなりました。誰もが抱えている「自分は演じているだけ、本当の自分はどこに?」と言うような悩みが大きく膨れ上がってしまって怖かったです。ただ、その悩みは自分だけではなくこの人も持っている悩みなんだと思うとがんばって生きていこうと思いました。

絵本『りんごかもしれない』が素晴らしかったです!私は日ごろから「今、自分に見えていない世界はなくなって灰になっているかもしれない」と言うような想像をしているのですが、そういうものの考え方や今あるものを疑う力がこの絵本には詰まっていました!

絵本が読みたいです!私は人に説明するのが得意ではないのですが、絵本は絵と文字を最大限効果的に使って読者の子供から大人まで全員に伝える力を持っています。読んでいて、ワクワクドキドキできるし、学べるものが多いので今年は絵本を読み漁りたいです!