高校ビブリオバトル2017

祖母のおにぎりが支えた、引きこもり青年の成長物語

『生きるぼくら』原田マハ

木村勇太郎くん(熊本県立玉名高校1年)

『生きるぼくら』(徳間文庫)
『生きるぼくら』(徳間文庫)

おにぎりは、「炊き立ての米、すなわちご飯に味を付けたり具材を入れたりして、三角形、球状、俵型などに加圧した食べ物」です。その歴史は2000年以上前、弥生時代にも遡るとされ、長きに渡り、人々に愛され続けてきました。今もなおその人気が衰えることはなく、6月18日は「おにぎりの日」と制定されるなど、現代社会でもその人気を強く示しています。

 

そんなおにぎりですが、あなたにとって1番おいしいおにぎりは何でしょうか。僕が考える一番おいしいおにぎりは、手作りの塩結びです。どうして手作りおにぎりはあそこまでおいしいのか、長年疑問だったのですが、その秘密はこの原田マハさんの『生きるぼくら』にありました。この作品は、人との繋がりの大切さ、そして手作りおにぎりのおいしさの秘密を教えてくれます。

 

物語の主人公は、高校でのイジメが原因で引きこもりになってしまった麻生人生という24歳の青年。人生は小学生の時に両親が離婚し、それからはずっと母親と二人暮らしをしてきました。離婚後、母親は昼夜を問わず働き続けるのですが、二人の生活は苦しいまま。にもかかわらず、人生は仕事や家事などの全てを母親に押し付け、自分は部屋から出ようともしません。そんな生活に限界を感じてしまった母親は、とうとう失踪してしまいます。人生はこのことに大きなショックを受け、これから先どうやって生活していこうかと途方に暮れるのですが、人生が頼ったのは彼の祖母でした。

 

人生は祖母と一緒に生活をすることになります。祖母を取り囲む人たちとの関わりや、祖母の手伝いとして始めた米作りが、今まで引きこもりだった人生を大きく変えていきます。人生は祖母との生活の中で少しずつ成長していくのですが、祖母の生活を支えるために米作り以外に清掃の仕事を行います。しかし、今まで引きこもりだった人生が、いきなり仕事をするのは苦労の連続でした。しかし、そんな彼を支え続けたのが、祖母の作ったおにぎりだったのです。人生はこの祖母のおにぎりを、大層おいしそうに食べます。このおにぎりよりもおいしい食べ物は他にないのではないかと感じてしまうほどです。人生は、この祖母のおにぎりに支えられながら仕事をこなしていき、次第に周囲の信頼を得ていきます。そして、人生の中でおにぎりの存在がどんどん大きくなっていきます。

 

人生の成長の様子を巧みに描くこの作品ですが、終盤には様々な真実が明かされます。例えば、人生の両親の離婚の秘密、離婚後の父親の行方や隠され続けてきたその想い、そして人生の母親が失踪してしまった本当の理由。これら全てを知った人生が何を思い、どう動くのかが見所となります。

 

おにぎりは人の手で結ばれたとても良い形をしており、この形こそが手作りおにぎりのおいしさの秘密です。僕は、おにぎりとは人と人を繋ぐ架け橋のような重要な意味を持っているのではないかと思います。

 

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2017 全国大会の発表より>

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