高校ビブリオバトル2017

自己増殖を始めた「横浜駅」から、人類を救い出すことはできるのか!?

『横浜駅SF』柞刈湯葉

渕本麻菜美さん(群馬県立伊勢崎商業高校3年)

『横浜駅SF』(KADOKAWA)
『横浜駅SF』(KADOKAWA)

『横浜駅SF』。題名からしてSF小説です。SFって難しそうと敬遠している人に、ぜひお薦めしたい本です。私もSF小説を読んだのは、これが初めてでした。これならSFを敬遠している人でも読めるかもと思える内容です。設定にすごくこだわっていて、その設定だけで読める本だと思います。

 

舞台は、未来の日本です。改築工事を繰り返す横浜駅が、植物のように自己増殖を始め、本州の99%が横浜駅になってしまいます。この横浜駅は、海水が苦手なので、海を渡ることができません。北海道のJR北日本と、九州のJR福岡は、防衛線を張って横浜駅と戦っているという状況です。ぎりぎり難を逃れているか逃れていないかという感じの四国は、「野蛮な無法地帯、四国」というふうに言われています。これだけ聞くと、一見シュールなギャグ小説かと思われるかもしれませんが、物語はちゃんとしたSFです。

 

このお話には、社会が二つ存在します。エキナカ社会とエキソト社会です。エキナカ社会には、体内埋め込み型チップのSuicaがないと入ることができません。そこには厳しいルールがあり、「駅員およびほかのお客さまの迷惑行為は禁止となっております」ということで、暴力行為、駅内の器物破損、そして喫煙は全面禁止です。これができない人は、Suicaがない人と同じように、ロボットの形をした自動改札に追い出されてしまいます。

 

主人公は、エキソト社会に暮らすヒロトという青年です。この青年の前に、エキナカから追い出されてきた一人の男が現れます。その男は、自らのことをキセル同盟の一員だと話します。そしてこの人は、ヒロトに向かっていきなり「人類を救ってくれ」と言います。

 

男は、その理由を話し始めました。「人類は昔、駅を使っていた。だが、今はそれが逆になってしまった。俺は人類を駅から解放するための活動をしていたが、メンバーはみんな、これに気付かれて殺されてしまった。ただ、リーダーだけがエキナカに残っている。その人を助けてほしい」ということなのです。

 

ただし、ヒロトはエキナカに入ることはできません。Suicaを持っていないからです。そんなヒロトに、彼はとあるものを渡します。青春18きっぷです。このきっぷを使えば、エキナカに入ることが許されます。ただし、たったの5日間。本州は広いです。リーダーを探して人類を救うことなんてできるのか。もしかしたら、自分が殺されてしまうかもしれない……。

 

そんな不安がよぎる中、エキソトに暮らす「教授」という老人が、ヒロトにこう言います。「42番出口を探せ。そこに人類を救うための鍵がある」。ヒロトは、自分にしかできないことなら俺が行こうと決心して旅に出ます。そしてエキナカに入って、様々な人と出会います。スパイの男の子、福岡の方からエキナカに入るために亡命してきた男、ロボットの女の子、一風変わった駅員さん……。

 

この世界観だからこそあり得る友情とか愛情というものがあるんだなと、この本を読んで知りました。また、話の展開がとてもスリリングです。いつ何が起こるか全く分からない。予想がつかない。そして何より、次はどんな設定が来るんだろうか。先ほど出てきいたSuicaのように、何か新しい言葉が出てくるんじゃないか。もう最初から最後までわくわくどきどき。そして、最後の最後には目頭が熱くなるような感動が待っているのです。

 

エキナカに行ってヒロトは気付きます。42番出口なんかどこにもありません。さて、ヒロトはどうなるのか。人類を救うことができるのか。横浜駅内には一体何があるのか。

 

横浜駅構内、5日間400キロの旅、皆さんもヒロトと一緒に旅してみませんか。そして、本書はSF小説です。ただしこの「SF」には、もう一つの意味が隠されています。それをぜひ読み解いてみてください。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2017 全国大会の発表より>

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『横浜駅SF』を通してSFの良さを知ることができたので、SFを読んでいきたいです。