高校ビブリオバトル2017
「10歳の小さな哲学者」に教えられた新しい世界
『見てる、知ってる、考えてる』中島芭旺
中村歩くん(東京都立国立高校3年)

僕は今年度、受験をします。では、なんでこんなところにいるのと言う方もいると思いますが、受験を控えた今だからこそ、紹介したい本があります。それが、『見てる、知ってる、考えてる』という哲学の本です。
哲学と聞くと、大人の書いた難しいものを想像して、身構えてしまうかもしれませんが、実はこの本、10歳の子どもが書いた本です。彼の名は中島芭旺(なかじま ばお)。人呼んで、「小さなからだの哲学者」です。彼の書く言葉があまりに深いと、ネット上やテレビでも話題になった本なので、ご存じの方がいらっしゃるかもしれません。
一体どんな言葉が書かれているのでしょうか。前書きにこんな一節があります。「子供は大人ではない」。当たり前じゃないか、何を言っているんだ、どこが哲学なんだ、そう思われる方がほとんどだと思います。それを知るためには、芭旺君のバックグラウンドを知らなければなりません。
彼は、不登校だった時期がありました。それは、ちょうどこの本を書いた10歳前後のころのことです。何もかも信じられなくなった芭旺君。そんな芭旺君を救ってくれたのは、ほかでもない彼自身の言葉でした。彼は自分自身と、そして世界を純粋な目で見つめ直し、言葉を紡ぎます。そんな彼の書く言葉は、あまりに深く僕の心に刺さってきました。
彼の言葉を一つ紹介します。
「世の中は
誰かの思い込みによってつくられている。
ということは
だれでもつくれるということ。」
これだけ短く簡単な文章なのに、どこか核心を突いているような気がします。純粋故の言葉です。芭旺君が不登校を経験したという事実と相まって、僕にはすごく説得力のある言葉に感じました。この本には、このような短く簡単な92の言葉が並んでいます。
それらは時に、われわれが考えてもみないような疑問を提示してくれます。想像してみてください。もし自分が当たり前だと思っていることが、本当は違っていたとしたら。この本は、そんなわれわれに新たな視点を与えてくれるのです。
改めて、最初にお伝えしたこの言葉「子供は大人ではない」を聞いて、皆さんは何を思うでしょうか。僕は今、この言葉にもう1文付け加えたいと思います。
「子供は大人ではない。じゃあ、子供は一体何なんだ」。考えてみたくありませんか。
この本は、芭旺君の生きざまそのものと言ってもいいかもしれません。芭旺君がどのように自分自身を見つめ、変わっていったか。そんな彼の言葉は、時に僕をも元気づけてくれるのです。受験のつらい中で、僕が自分を保っていられるのは、この本があったおかげだと思います。

僕は今、芭旺君のこんな言葉に押されてこの場に立っています。
「『こわい』は、やりたいということ。
やりたくなかったら『やりたくない』って思う。
『こわい』ということは、やりたくないわけではない。」
人生には、何かしらつらい経験はあるでしょう。この本を読めば、それらを乗り越えられる気がしてくると思うんです。芭旺君の言葉を借りるなら、「読む人の数だけ宝が見つかる」。ぜひこの本を読んで、生涯大切にしたくなるような言葉を見つけてみてほしいと思います。
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<全国高等学校ビブリオバトル2017 全国大会の発表より>
こちらもおススメ

『記憶屋』
織守きょうや(角川書店)
記憶を食べる怪人「記憶屋」を巡るホラー小説。周囲の人々が次々と記憶を失ってゆくという見えない恐怖に鳥肌が立ちました。やがて明かされる真実に、きっと誰もが心を打たれます。最後まで何が起こるか予想がつかず、引き込まれた一冊です。「記憶を消すのは正義か悪か」。皆さんも一緒に考えてみませんか。
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『また、同じ夢を見ていた』
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子どもが少しずつ言葉を覚え、使うようになる。そんな何気なくも不思議で面白い過程が、微笑ましく描かれています。『サラダ記念日』で知られる歌人、俵万智さんならではの、温かく包み込むような文体がお気に入りの一冊です。息子さんの発言に、思わず笑みがこぼれました。言葉の持つ奥深さや楽しさを、この本から感じてみてください。
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中村くんmini interview

小説はジャンル・作家にとらわれず、興味を持った作品を読んでいます。短歌が好きで、俵万智さんの歌集やエッセイを多く読んでいます。

『コーヒーが冷めないうちに』です。悩みを抱えるそれぞれの登場人物の、時空を超えた物語に感動した一冊。舞台原作ならではの軽快なやりとりも楽しく、印象に残りました。

『コーヒーが冷めないうちに』の続編である『この嘘がばれないうちに』を読んでみたいです。また、住野よるさんや辻村深月さんの作品は、ぜひ今後たくさん読みたいです。今年度グランドチャンプ本が『横浜駅SF』ということで、これを機にSF作品にもチャレンジしてみようと思います。