高校ビブリオバトル2017
華やかな異世界のルールを知って、国賓気分を味わおう
『もしも宮中晩餐会に招かれたら~至高のマナー学』渡辺誠
岡田耕太郎くん(六甲学院高校[兵庫] 2年)

もし天皇陛下や総理大臣のような方から、お食事会に招かれてしまったらどうしますか。僕だったら、もう緊張を通り越して体が震えてしまいます。しかし、もしそんなことがあっても、この本があれば大丈夫。それが『もしも宮中晩餐会に招かれたら』です。
宮中晩餐会とは、天皇陛下のお住まいである皇居で行われる、国賓をもてなすための晩餐会です。もしも宮中晩餐会に招かれたら、一体どうしたらいいのでしょうか。
この本は、家の本棚にありました。こんな本を、僕は買った覚えはないぞ。とすると、僕の父か母が買ったということになる。父か母は、この本を読んで宮中晩餐会に招かれる気でいたのではないか。そう考えたんですが、僕も将来大きな人間になって、宮中晩餐会に招かれることがあるかもしれないしということで、読み始めたわけです。
これが読み物としてなかなか面白い。この本のサブタイトルに『至高のマナー学』とあるんですけれども、堅苦しいマナー本ではありません。
宮中晩餐会というのは、われわれが住んでいる日常生活とは全く違う、異世界のような空間です。宮中晩餐会での料理というのは基本的にフランス料理です。フルコースといったら、自分のところに1品ずつ運ばれてくるイメージですが、宮中晩餐会では違います。テーブルごとに大皿に盛ってやってきます。
しかも、その大皿に盛られた料理は、ウエーターさんが取り分けてくれるのではなく、自分で取らなければなりません。もし、僕が宮中晩餐会に出て、その異世界のような空間でおどおどしながら、自分で料理を取り分けるなんてことは、到底できないと思うんですね。しかし、それが宮中晩餐会というものなのです。
宮中晩餐会では、意外にも牛肉は出ません。なぜかというと、宮中晩餐会は外国のお客さまをおもてなしするお食事会ですが、宗教の関連で特定の肉が食べられない人も多いのです。ですから、牛肉ではなく、必ずヒツジ肉を使うんです。ヒツジ肉というのは、宗教で禁止していることがなくて、どの地域の人でも結構食べられる料理なんですね。
また、スープにグリーンピースが入っていたら、このグリーンピースはどうやって食べると思いますか。普通ならスプーンですくうと思いますが、正式なルールは違います。なんと、フォークの背の部分に乗せて食べるというのが、宮中晩餐会で出される本場のフランス料理のルールだったりするんです。

料理のこと以外にも、いろいろなことが書かれています。例えば宮中晩餐会にはどんな服を着て行けばいいのか、宮中晩餐会にはどんなしきたりがあるのか、どういう振る舞いをすればいいのか。宮中晩餐会のお誘いを受けて、そして宮中晩餐会が終わって家に帰るまで、その全てがこの中に事細かに描かれています。まるで自分が宮中晩餐会に行ったかのようになれる気分です。気分はさながら国賓です。
さあ宮中晩餐会を想像してみてください。おいしい料理に興味のあるあなたも、はたまた、俺は将来ビッグな人間になって宮中晩餐会に招かれてやるぜというあなたも、この本を読んで空想宮中晩餐会に行ってみてはいかがでしょうか。
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<全国高等学校ビブリオバトル2017 全国大会の発表より>
こちらもおススメ

『一九八四年』
ジョージ・オーウェル著/高橋和久訳(ハヤカワepi文庫)
<ビックブラザー>と、彼が率いる党によって支配されている近未来を描いた小説。二重思考、ニュースピーク、二分間憎悪などなど、SF 好きとしてはワクワクするような独自用語も多く、単なる SF・ディストピア小説として楽しむこともできますが、徹底的な監視社会のもと、歴史改竄や思想統制などが行われ、自分の頭で考えることが難しくなっているというストーリーに、現代社会への警告のようなものが見え隠れし、我々の住む社会を見直すきっかけになるような本だとも思えます。
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『リング』
鈴木光司(角川ホラー文庫)
今までに読んだホラー小説の中でも最も怖かった作品の一つ。貞子が TV からはいでてくるシーンで有名な映画の原作ですが、原作にはそのシーンはありません。しかし、本当の恐ろしさは、映画ではなく「小説」だからこそ味わえるものでした。読んでいると、紙に書かれている文字が意思を持ってこちらに向かってくるような気分を味わい、心を直接触られるようなゾクゾクした恐怖を味わうと同時に、文章だけでここまで人に恐怖を植え付けることができるのかと作者の技巧力に驚きました。「リング」シリーズは、この後に「らせん」「ループ」、外伝の「バースデイ」を挟んで、新リングシリーズの「エス」と「タイド」と続いていきます。シリーズ後半になるに連れてどんどん SF チックになっていき、SF としても非常に楽しむことができました。独特のホラー感も健在で、「エス」では本を持つことが怖くなるほどの恐怖を味わいました。本を通して恐怖体験を感じたい人や、文字の持つ魔力を感じたい人にぜひ読んでいただきたい本です。
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『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』
フィリップ・K・ディック 浅倉久志:訳(ハヤカワ文庫SF)
最近続編も発表された近未来映画『ブレードランナー』の原作。読後に、その独特なタイトルについて考えさせられるような小説でした。作中の「高度に発達したアンドロイドは人間と区別することができるのか」という疑問は、まさに今考える必要のある疑問だと思います。AI などが人間の思考をトレースして活動するようになってきて、人間が行う入力に対して AI が解を出力するというのは年々リアルになっていきます。この先、スマートフォンや PC を通じて話している相手が機械か、人間かを判別することは難しくなってくるかもしれません。この判別テストのことを「チューリングテスト」というのですが、この本を読んでチューリングテストにも興味がわき、関連書籍も読みました。SF といえば難解用語の連続で頭になかなか入って来ない印象がありますが、この話に限らずフィリップ・K・ディックの小説は、頭に場面がすぐ思い浮かぶほど、とても読みやすいものばかりなので、今まで SF を読まなかったという人にも是非オススメしたい一冊です。
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岡田くんmini interview

好きなジャンルは SF です。特に P.K.ディックやレイ・ブラッドベリなどが好きです。最近はコードウェイナー・スミスの人類補完機構シリーズにハマっています。また、少し前まではホラー小説がブームでした。どうも私は一定の周期で好きなジャンルが変わる傾向があるようです。

江戸川乱歩の少年探偵団シリーズや、宗田理のぼくらシリーズなどを愛読していました。一番好きだった本は池澤夏樹さんの『キップをなくして』です。切符をなくした子供たちが、駅の中で暮らしていくという身近かつ想像力がとても膨らむ内容で、今でも自分の中でのベストとなっている本の一つです。

『アンドロイドは人間になれるか』(石黒浩 著)。大学の様々な教授のお話を聞く機会があり、その事前学習として読んだ本なのですが、今まで未来図として描かれてきたアンドロイド開発の実際の様子や、またアンドロイド開発を通して「人間」そのものを研究するということに心を惹かれ、自分の今まで持っていた興味も相まって進路を明確に決めるきっかけとなる本になりました。

施川ユウキ作の『バーナード嬢曰く。』は、本を読まずに読書家ぶりたい主人公「バーナード嬢」こと町田さわ子と、読書家の友人が繰り広げる“名著礼賛”ギャグ漫画。主に図書室の中で本についての話をしているだけの話なのですが、読んだことのある本がでてくると「あーあるある!!」と言いたくなり、読んだことのない本に関してはとても読みたくなるという、読書家にも、そうでない人にも是非読んでいただきたい漫画です。実この本の影響で私は SF にドハマリしてしまい、最近は SF ばっかり読むように。また、学校図書室にお願いして図書室にもこの漫画を置いてもらったのですが、普段は借りられてない本が、この漫画で出てきたことで、最近良く借りられているようです。

ハードSFで有名な、グレッグ・イーガンの本や、先進技術に関する本、またそれを題材にした小説などを読んでいきたいです。また、読み始めたものの一旦読破を諦めてしまった、スティーブン・キングの『ザ・スタンド』も読みたいです。しかしその前に、やまほどの“積ん読”を消費することが課題です。