高校ビブリオバトル2017

校長先生も絶賛!50年前に書かれたSFの大傑作!

『マイナス・ゼロ』広瀬正

堀内八衣乃さん(和歌山県立桐蔭高校2年)

『マイナス・ゼロ』(集英社)
『マイナス・ゼロ』(集英社)

この本は約50年前に書かれたということもあって、あまり知られていないのですが、私がこれを読み終えたときの第一声が、「何これ、面白い!」でした。集英社さんに勤めているわけではありませんが、こんなに面白い本、絶対に売らなきゃいけない、広めなきゃいけないという、もはや謎の義務感のもと、はるばるこの会場まで来てしまいました。ということで、今日はこの本の魅力について、思う存分語ってから帰りたいと思います。

 

舞台は1945年の東京。空襲の最中、主人公の浜田少年が、隣の家に住む伊沢先生から謎の遺言を受け取ります。「18年後の今日、ここに来てほしい」。18年後、主人公は約束の日に約束の場所を訪れます。すると、そこに現れたのは謎の機械と、18年間行方不明だった伊沢先生の娘さん。実はこの謎の機械はタイムマシンです。そのことに気付いた主人公は、タイムマシンに一人で乗り込み、意図せず1932年、戦前の日本にタイムスリップしてしまいます。

 

さらにアクシデントは重なり、タイムマシンだけが元の世界に戻って、主人公は1932年の日本に取り残されてしまいます。主人公に残されたのは、戦後の知識と、なぜかタイムマシンに載せてあった当時の大金のみ。この二つを使って、主人公は戦前戦後の日本を生き抜いていきます。

 

私は普段SFは読まないのですが、この本は去年退職なさった校長先生が、私に強く薦めてくださったので読みました。最初校長先生に薦められた時は、「SFだし、だいたい広瀬正って誰?」と思いながら、なかなか読めずにいました。でも校長先生が、廊下で会うたびに「読んだ?」って聞いてくるんです。極め付きには、「『マイナス・ゼロ』、貸してあげるから読んで」と、まさかの私物が登場。ここまできたら読むしかないと思って読みました。それがこうやって、今日ここで紹介したくなるくらいはまってしまったということです。そして、この本を返しに行った時の校長先生の顔が忘れられません。「どうだ、面白かっただろう」と顔に大きく書いてありましたからね。今ここで発表していることを校長先生が知ったら、すごくびっくりされると思います。

 

この作品は、読むにつれてだんだん登場人物の関係性が明らかになっていきますが、その感覚が本当にたまらないんです。また、最初の方に出てきた思わぬ伏線が、最後のほうで、それはもう見事に回収されていくのですが、その回収の仕方が素晴らしくて、作者さんに「参りました」と頭を下げたくなるレベルです。

 

この本は、司馬遼太郎さんも大絶賛している本で、解説はあの星新一さんが書いています。何ともぜいたくな解説ですね

 

この本を読み終わった時、広瀬正さんって何者なんだ、と調べてみました。若くして亡くなった方なのですが、この本を書いたあとに、アニメの脚本も書いています。その作品名が、なんと『ひみつのアッコちゃん』と『魔法使いサリー』。お母さんに言ったら、「本当に?!」と言って、めっちゃ喜んで読んでいました。

 

ですから、その世代の方にもぜひ読んでもらいたいなと思います。もちろん高校生でも、50年前の本とは思えないほどすらすら読めて、ぐいぐい引き込まれます。本当に奇跡の大傑作です。これほど面白い本を私は知りません。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2017 全国大会の発表より>

こちらもおススメ

『烏に単は似合わない』 

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私の大好きなファンタジー作品です。平安時代からのヒット作源氏物語に似た世界観で、最後のどんでん返しには思わず「あっ」と声をあげてしまうほどです。魅力的な登場人物で紡がれていく宮廷ファンタジー。面白くないはずがありません!!

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『不思議な文通 グリフィンとサビーヌ』

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ビブリオバトルで出会った外国の絵本です。孤独な画家と謎の女性のロマンチックで不思議な手紙のやりとり。絵本には、実物そのままの絵はがきと封筒に入った手紙で物語が進んでいきます。手紙のやり取りの行く末を私は一生忘れることができません。

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『みをつくし料理帖』

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堀内さんmini interview

昔からずっとファンタジー作品が大好きです。現実では味わうことのない世界観には、高校生になった今でもわくわくします。特に、上橋菜穂子さんの描く世界が大好きです。食べ物や、生き物、政治など、世界が確立していて、本を開けばすぐに架空の世界へ溶け込むことができます。

 

宮下奈都さんの『羊と鋼の森』という作品です。私はこれといって特別な才能を持っているわけもなく、「どうせ才能のある人には勝てない」という考えを持っていましたが、この作品に出てくる、「少なくとも、今の段階で必要なのは、才能じゃない。そう思うことで自分を励ましてきた。才能という言葉で紛らわせてはいけない。あきらめる口実に使うわけにはいかない」というセリフを読んで「頑張ろう」と思えました。

 

奥田陸さんの『蜜蜂と遠雷』です。2017年に本屋大賞と直木賞をダブル受賞した作品で、読後の満足感は今までで一番です。最初は本の分厚さに読むことをためらいましたが、読み終わった時は、その分厚さを愛おしく感じるほどでした。作者さんに「すてきな作品をありがとうございます」と言いたいです。

 

今まではファンタジー作品を中心に読んでいましたが、最近朝井リョウさんの『時をかけるゆとり』を読んで、エッセイの面白さに気づき、山田宗樹さんの『百年法』を読みSFの面白さに気づき、ファンタジー以外の本にも興味が出てきました。これからはジャンルにしばられずたくさんの本を読んでいきたいと思います。まずは、今回のビブリオバトルで発表された本を読んでいきたいです。