高校ビブリオバトル2017
友情でも愛情でもなく、「君の膵臓をたべたい」としか言い表せない関係とは
『君の膵臓をたべたい』住野よる
桑本草太くん(熊本県立玉名高校1年)

泣きたいときにお勧めの本を紹介します。『君の膵臓をたべたい』です。でもちょっと考えてみてください。街中で、誰かが「君の膵臓をたべたい!」って叫んだらどう思いますか。今から殺人事件でも起こるのか?!とびっくりしてしまいます。僕が初めてこのタイトルを見た時、思わず二度見してしまいました。そして、興味がわいて手に取ったのです。
この物語の主人公は、とても根暗でひねくれた男です。彼は本が大好きでした。ある時読んだ本は、膵臓の病気で余命宣告を受けた人の闘病、いや、病気と共に生きる「共病」日記でした。この本の持ち主は、クラスメイトの、主人公とは正反対の人物、山内咲良という女の子。主人公はこの女の子に惹かれ、二人の関係は急展開を重ねながら、物語が進んでいきます。
面白いのは、その端々に現れる、主人公のひねくれた性格を体現した遠回しな言い方です。抽象的だからこそ、僕たちの想像力をかき立てて、気づいたらページをめくる手が止まらなくなっていきます。映画を観た人もいると思いますが、この感覚を味わうために、ぜひ映画ではなくて小説を読んでいただきたいのです。
この本は、男の子と病気の女の子が仲良くなっていく物語です。だとすると、ラストも予想がつきますよね。余命が少ない女の子、最後には男の子が自分の無力さに打ちひしがれながら、愛を叫ぶんでしょうね。世界の中心かどこかで!
でも、それを裏切る衝撃的な死が彼女を襲います。そして主人公は気づきます。今まで、誰一人必要としてこなかった彼が、唯一その女の子のことを必要としていたことに。その女の子はどんな世界を見ていたのか、いまはもうわからない。もう聞くこともできないことに。
いや、一つだけあります。この物語の最初に出てきた、共病日記です。こうして、この物語は一冊の文庫本から始まり、一冊の文庫本に終わるのです。僕が最初にこの本を読んだとき、本当に号泣しました。でも、この本の本当の魅力に気づいたのは、もう一度この本を読み返した時でした。

主人公の目線で語られるこの本は、共病日記を通して、女の子の目線に切り替わります。そして、あやふやだった主人公の言葉たちは、その時の女の子の心情を受けて、全く違った印象を与えるのです。定まっていないからこそ、自分の想像力で、この本は完成するんです。だからこそ、この本を読み返してほしい。
その時、主人公と女の子、二人の関係を表すのは、友情でも、愛情でもなく、「君の膵臓をたべたい」としか言い表せなくなるのです。あなたの中での言葉の意味を、残像のようにこの作品に重ねていくことで、違った印象が深く深くあなたのなかに刷り込まれていきます。
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<全国高等学校ビブリオバトル2017 全国大会の発表より>
こちらもおススメ

『いま、会いにゆきます』
市川拓司(小学館文庫)
タイトルに込められた愛情。別れが必ず来るとわかっていても、会いたいと思う一途な心と、どうしても変えてしまいたくない運命の恋に、涙が止まりませんでした。
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桑本くんmini interview

泣ける話、切ないストーリーが好きです。作家では、住野よるさんが好きです。

『友だちは1/2ゆうれい』が気に入っていました。1/2ゆうれいの友達の体(生きている本体)を探す物語です。

『ローマ法王に米を食わせた男』。スーパー公務員の生き方に、大きな影響を受けました。

『世界の中心で愛を叫ぶ』は、名前は聞いたことがあったけど、2017年に初めて読みました。無力さがとても心に響きました。

とっても泣ける本が読みたいです。