高校ビブリオバトル2017

文豪たちの魅力が2ページで味わえる!100通りの作り方

『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』

神田桂一、菊池良

池田朱莉さん(山形県立酒田東高校1年)

『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)
『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)

私は文豪が好きです。でも、「歴女」のようなもので、文豪そのものの逸話は好きですが、実は彼らの作品はあまり読んだことはありませんでした。代表的なところでいうと、芥川龍之介さん、彼に憧れた太宰治さん、小説の神様と呼ばれ、自転車で電車にぶつかっても死ななかった志賀直哉さん。

 

そんな私と、彼らの小説を結びつけてくれたのがこの本、『もし文豪たちが カップ焼きそばの作り方を書いたら』です。

 

この本の面白さはズバリ2つです。1つは、それぞれが全く違うように見えて、内容は一緒であるところ。もう1つは、たくさんの文学作品をこの1冊で疑似体験できるところです。

 

「それぞれが全く違うように見えて、内容は一緒」とはどういうことなのか。太宰治であれば、『焼きそば失格』、江戸川乱歩であれば『二銭焼きそば』と、文豪たちそれぞれの名作に合わせてパロディしていますが、内容はすべて同じです。カップ焼きそばの蓋を開けて、お湯を入れて、5分間待って、お湯を捨てて、ソースを絡めて、ああ美味しい。それだけしか書いてないんです。

 

では、特徴的な湯切りの部分だけ読んでみたいと思います。

 

『焼きそば失格』はこうです。

「私に、湯切りをする資格があるのでしょうか。きっと、あるのです。あるはずなのです。「許してくれ」そう呟(つぶや)きながら、私はお湯を捨てました」。

こういう自虐的な、自問自答するような感じが太宰治そっくりです。

 

次に、江戸川乱歩だとこうなります。『二銭焼きそば』。

「そうして五分経てば、できるだけ手早く、湯を葬ってしまいましょう。十本の指で、うまく容器を傾けると、湯がはみ出してきて、ボコボコと崩れ落ち、排水管の闇の奥に消え去っていきます」。

 

こんな感じで、すごく勿体振るというか、読者に挑戦するような書き方が江戸川乱歩らしいところです。本当に書き方によって、全然違う作品になっていますよね。

 

2つ目の面白さ、「疑似体験できる」について。

 

私は、クラスに江戸川乱歩好きの友人がいますので、その子に「最近面白い本ない?」と聞いたり、先生に同じ質問をしたりして、紹介された本を本屋さんで買って、「何だか読み慣れないけど、慣れるしかないよな」としおりを挟みながら何か月もかけて読みます。でも、高校に入学してわかりました。「読書の時間がない!」って。例えば島崎藤村。長いですよね。読み始めて、途中で中断して、また読み始めてもそれまでの内容がわからなくなる、といったことがありました。

 

でもこの本なら、そんな彼らの魅力をキュッと濃縮して、一人にせいぜい2ページで紹介してくれます。この厚さの1冊で、計100人の著者・文豪を楽しむことができるんです。

 

私はこれまで「推し文豪」がいて、小林多喜二や島崎藤村の逸話が好きでした。その逸話と彼らの作品を結びつけてくれたこの本に、とても感謝しています。かつて読破を諦めてしまった本や、今まで出会わなかった本に、この本を通して出会えたことにも感謝です。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2017 全国大会の発表より>

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