高校ビブリオバトル2017
明日が来る可能性は誰でも同じ。明日が来ない可能性もまた同じ
『三日間の幸福』三秋縋
橋本雪音さん(埼玉県立松山女子高校2年)

寿命がお金になるとしたら、皆さんは売りますか。売りませんか。道徳の授業でもそのような問いはあったと思います。何よりも大事と言われている人間の命に、実際に値段をつけるとしたらいくらになると思いますか。
この本は、大学生の主人公が「寿命を売れる」と噂のビルへ行くところから始まります。そして、主人公は、たった3か月だけを残してすべての寿命を売ってしまいます。私はこの本をできるだけまっさらな状態で読んでほしいのですが、その前に少しだけ、核心に触れるお話をさせてください。
この本の題名は『三日間の幸福』なのですが、主人公が残した時間は3か月です。ではなぜ、「三日間」なのでしょうか。その答えは、もう一人の登場人物の女性による「監視」にあります。寿命を売って監視されるとはどういうことでしょう。
例えば、「明日で世界が終わるとします。残りの時間を自由に過ごしてください」と言われたら、何をしたいですか。友達と遊びたいとか、家族と過ごしたいとか、いろいろあると思いますが、中にはお店のものを勝手に食べたり飲んだりとか、盗んだもので遊んだりとか。普通はしてはいけないことをやっちゃう人もいるかもしれません。明日で世界が終わるなら、やけくそになって、何をやってもいいと思ってしまいませんか。
この本での「監視」とは、寿命を売った人がやけくそになって誰かを傷つけないかを見張ることです。監視がいる間は、何をしている時も、誰といる時もすぐ近くで見張られているのです。そんな監視が、余命三日になると姿を消します。人生最後の三日間だけは、誰に監視されることもなく、自分一人で自由に過ごせるのです。この題名は、この最後の三日間を指しています。
この本は、寿命を売れるというのが大きなコンセプトです。そんなことはフィクションの中だと思うでしょう。しかし、フィクションの中にもノンフィクションが隠れているのです。この本の主人公は、自分の寿命を売ってしまったことで、余命が突然三ヶ月になります。少しだけ設定を変えてみましょう。「昨日まで元気に学校に通っていた高校生が、急に体調が悪くなって病院へ行くと、病気の進行で余命三ヶ月と宣告されました」…。明日が来る可能性は誰でも同じ。でも、明日が来ない可能性も平等にあるんです。ただのフィクションとは思えなくなってきたでしょう。

この本は、読む人によって結末が変わります。十人が読めば、十の結末が待っています。残酷な社会の現実、そして真実の儚さを描いた、涙なしには読めない一冊です。あなたにはハッピーエンドでしたか。バッドエンドでしたか。いろいろな感想を、皆さんと話してみたいです!
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<全国高等学校ビブリオバトル2017 全国大会の発表より>
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橋本さんmini interview

好きな作家さんは、乾くるみさんと山田悠介さんです。

山田悠介さんの『名のないシシャ』が好きでした。書店の前を通った時に真っ青な表紙が目につき、立ち止まったのが出逢いです。それまで読書には一切興味を持っていなかった私が、この一冊によって読書の楽しさとフィクションの無限さを感じ、本好きになりました。