高校ビブリオバトル2017
考える喜びをずっと味わえる「どこでもドア」を開けてみよう
『哲学的な何か、あと科学とか』飲茶
青木勝之くん(東海高校[愛知] 2年)

タイトルに「哲学」とありますが、皆さんの中には、「哲学って何が面白いのかよくわからない」という方もいらっしゃると思います。でも、それでいいんです。この本は、哲学を全く知らない人でも、その面白さを味わうことができるように書かれた本です。ですから、難しい哲学用語なんていうものは一切出てきませんし、「だって」とか「ぶっちゃけたところ」という、すごく読みやすい語り口で書かれています。
さて、タイトルには「科学」も入っています。僕はこの本を読むまで、科学と哲学は全く関係のない、別のものだと思っていました。でも、そうではなかったのです。
例えば科学理論。「ナマズが地震を引き起こす」といった都市伝説みたいなものから教科書に載っているものまで、いろいろな科学理論がある中で本当に正しい理論と言えるものは一体何なのだろうか。こんなふうに考えるのは、まさに科学における哲学だと言えます。
この本では、偉人たちが考えた、その線引きの方法が詳しく紹介されていますが、その一つひとつのどれもがわかりやすくて、納得できるものです。僕は、哲学というものに対して持っていた、「なんだか堅苦しくて普通の人にはよくわからないもの」というイメージが全くなくなりました。
この他にも、読んでいるだけで面白くて、自然と哲学的思考というものが身に付くエピソードがたくさん集められています。そんな本だからこそ、僕は今、哲学というものにはまってしまって、皆さんをこっちの世界に引きずり込もうとしているわけです。
この本の中で一番気に入っている「心」というものに関する「思考実験」を、一つ紹介したいと思います。「思考実験」というのは、頭の中で考える実験、思考する実験です。ここからは、よくイメージしてみてください。その名も「どこでもドアの思考実験」というものです。
「どこでもドア」が開発されたとします。その仕組みは、まず出発地点側のドアで体のデータをスキャンして、到着地点側のデータに転送します。そして、ここでコピー人間を作って、元あった体を消滅させてしまいます。こんな仕組みだったら、一体どうなるのかというものです。
ある日、この世界ののび太君が、ドラえもんにこう言います。「ねえ、ドラえもん、僕の記憶とか体が完璧にコピーされたとしても、いま生きている僕の心と、ドアから出てきたあとの僕の心というのは、全くの別物なんじゃないの?」。すると、ドラえもんはこう返します。「いやいや、のび太君、そんなことは関係ない。君の心が別のものになっていたとしても、君は今までと全く同じようにみんなと楽しく過ごすし、まわりの人は絶対にそのことに気が付かない。それに、のび太君はまわりの人、例えば、パパやママ、ジャイアン、スネ夫、大好きなしずかちゃん、いろんな人が何回もどこでもドアを使って生活してきたのに、今の今まで、何の違和感も覚えずに楽しく過ごしてきたじゃないか。本当は君にとって、みんなの心が本物かどうかなんていうのは、どうでもいいことなんじゃないの」。
普段、当たり前のように接している家族や隣の人の心が変わっているのかもと考えると、少し怖いですよね。でも、こんな少しの怖さも、哲学の面白さでもあるのです。
この本は、読んでいるときだけ面白いのではなくて、読み終わったあと、哲学的思考というものを身に付けて、考える喜びをずっと味わえるという魅力もあります。哲学という素晴らしく面白い世界の扉を、いえ、ドアを開けてみてはいかがでしょうか。
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<全国高等学校ビブリオバトル2017 全国大会の発表より>
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『千年女優』という映画です。私が赤ちゃんの頃の映画なのですが、ふとしたきっかけで見ることができ、とりこになりました。映像作品としての美しさはもちろん、掘り下げ甲斐のある伏線や演出が非常に多く、友人と議論することも含めて楽しめています。