高校ビブリオバトル2017

「ひとりで悩まなくてもいいよ」とやさしく背中を押してくれる

『かがみの孤城』辻村深月

徳永勇人くん(関西創価高校[大阪] 1年)

『かがみの孤城』(ポプラ社)
『かがみの孤城』(ポプラ社)

中高生であれば、「学校に行きたくないなあ」とか、社会人の方であれば「仕事、行きたくないなあ」「近所づきあい大変だなあ」といった生き辛さを感じたことはありませんか。感じている人はけっこう多いと思います。そんな方にお勧めしたいのが、『かがみの孤城』です。

 

主人公は、安西こころという中学1年生の女の子。学校での生き辛さを感じて、不登校になってしまいました。部屋にずっと閉じこもって生活しているのですが、ある日、自分の部屋のかがみが輝いたのです。

 

その光の先に手を伸ばすと、そこには別の世界が広がっていて、かがみの孤城という大きなお城が一つ建っていました。こころをその世界に連れてきたのは、狼のお面をかぶった「オオカミさま」という女の子でした。こころの他にも6人、こころと同じように、学校に行けなくなった子どもたちが集められ、一緒に生活を始めます。

 

かがみの孤城には一つだけ「願いの鍵」というものがあって、それを見つけた人1人の願いが叶います。7人は、その鍵を探し始めました。願いの鍵探しには2つルールがあります。1つ目は「願いの鍵を探せるのは、ここに呼ばれた子どもたちで、期間は5月から次の年の3月30日まで」。2つ目は「かがみの孤城に入れるのは朝の9時から夕方の5時まで」というものです。もし夕方の5時を過ぎても居残った場合は、狼に食べられてしまうというペナルティ付きのものでした。

 

辻村さんはミステリー作家なのですが、この方の作品は伏線がいつの間にかたくさん散りばめられていて、それが後半どんどんどんどん綺麗に回収されていくのが特徴です。本書にも伏線がいくつかあります。例えば、3月30日というのは学年が切り替わる直前ですが、これがなぜ31日ではなくて30日なのか。オオカミさまの仮面の下は一体誰なのか。学校に行ってないたくさんの子どもたちの中でなぜこの7人が集められたのか。そういった一つ一つの謎が解き明かされ、最後は絶対に予想を覆してくれます。

 

この本を選んだのは、僕が初めて泣かされた本だからです。僕は福岡県出身で、大阪府の学校に中学校から4年間、寮から通っています。自分が寮生活をしている中で、高1の2学期にこの本に出合い、就寝時間は12時なのに深夜3時までずっと読んで、号泣してしまいました。この本に出てくる7人の子たちや、他の登場人物のかがみの孤城内での生活を読んでいると、僕が独りで抱え込んでいると思っていた悩みが、実はこの子たちも同様に悩んでいるんだと思われたからです。だから、自分は独りじゃないんだと励まされた気持ちになって、感動しました。

 

推薦する理由がもう1つあります。不登校を題材にした本は、「大人は敵」というイメージで描かれることが多いですが、この本の中では、こころのお母さんや、学校に行けない人たちが通うフリースクールの先生たち自身も、悩みを抱えながらも支え合って生きているのです。大人と子どもは実は似たような悩みを抱えていて、その悩みを消化しきれないまま大人になった人たちも、支え合いながら生きているんだと感じることができました。

 

一番心に残っているセリフは、7人のうちの1人であるマサムネが言った「僕たち助け合えるよ」でした。誰しも様々な悩みを抱えていますが、みんな独りじゃないし、大丈夫だよと、この本が自分の背中を押してくれるよう気持ちになりました。ミステリー本としても面白いですし、その先にある感動もすごいです。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2017 全国大会の発表より>

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ミステリー、辻村深月さん

『かがみの孤城』を読むまで「大人と子どもは分かり合えない」と思っていましたが、この本は大人と子どもは分かり合えるということが書かれていました。それから、中学時代の苦しかったころを支えてあげる大人になりたいと思い教師になろうと決意しました。