高校ビブリオバトル2017

こんな本になら人生を狂わされてみたい! ライトな書評が新しい世界の扉を開く

『人生を狂わす名著50』三宅香帆

近久 萌さん(岡山県立岡山南高校3年)

『人生を狂わす名著50』(ライツ社)
『人生を狂わす名著50』(ライツ社)

「私にとって、読書とは戦いです」。これは、私が紹介する『人生を狂わす名著50』の著者である三宅香帆さんの言葉です。三宅さんは、文字通り読書と戦っています。そして、けっこう負けています。

 

例えば、三宅さんは高知県出身ですが、司馬遼太郎さんの『燃えよ剣』を読んで、この本の舞台となる京都の大学に進学先を決めています。さらに、大学4年生になって就職活動をしていましたが、ある本がどうしても気になって、その本について研究をしたいがために就職活動をやめて、大学院に進学しています。このように、人生の大きなターニングポイントではいつも読書に負けているのです。

 

そんな三宅さんが、「この本を読んだら人生狂っちゃうよね」という本を50冊紹介しているのが、この『人生を狂わす名著50』です。この本の書評は、もともとはブログに書いてあったものです。ですから、普通の書評とは違って、ライトな感じで読むことができます。

 

例えば、三浦綾子さんの小説『氷点』の紹介では、三宅さんが中学生のときに図書館で出会った女性との回想が、そのままこの本の紹介になっています。三宅さん自身の『氷点』の感想は一言も出てきませんが、三宅さんも、そしてその回想に出てきた女性もこの本に人生を狂わされていることが伝わってきます。

 

また、小川洋子さんの『やさしい訴え』では、小川さん宛ての手紙として本の紹介をしています。このように、普通の書評とはちょっと違った気持ちで読めるような、新しい書評の形と言えると思います。

 

さらに50冊の本それぞれに「〇〇vs.△△」というキャッチコピーが付いています。例えば、「常識的フェチズムvs.狂気的フェチズム」、「どうせ死ぬvs.だけど生きる」、「まともに生きるvs.変態として生きる」。これだけではよくわかりませんよね。でも、この書評を読み終わったあとに、この「〇〇VS△△」を改めて見返すと、三宅さんがこの本を切り取った視点がわかる、ちょっとした伏線になっています。

 

ちなみに先ほど紹介した「まともに生きるvs.変態として生きる」は、『コミュニケーション不全症候群』(中島 梓)、「どうせ死ぬvs.だけど生きる」は、『時間比較社会』(真木悠介)。「常識的フェチズムvs.狂気的フェチズム」は、川端康成の『眠れる美女』です。

 

この川端康成の『眠れる美女』、私は実は高校3年生で、本を読んでいる場合じゃないですし、今までは、川端康成なんて高尚な感じがして、ちょっと読みにくいイメージがありましたが、三宅さんの書評を読んだらすごく読みたくなってしまいました。

 

彼女の紹介はこんな感じです。「川端康成の『眠れる美女』という小説は、『眠る美少女』への偏愛、つまりフェティシズムをものすごーくエロティックに、美しく、そして妖しく描いています。読んでいると女の私でも『ふはぁ』とため息をついてしまうくらい、フェチというものへの狂気を感じる。偏愛とはすなわち狂気です。本当に」。この一文で読むことを決めたというわけではありませんが、それでも「こんな読み方があるんだ」ということを教えてくれました。

 

先ほども述べたように、私は高校3年生で、このビブリオバトルに出るための県大会は入試の次の日でした。のんびり本なんか読んでいる場合じゃないというのはわかっているのですが、この本を読んだら、この本を誰かに広めたくて仕方がなくなってしまうのです。「こんな読み方があったのか」「この人はこんな視点を持っているのか」「あ、この本を読みたい」という、新しい世界の扉が開くようなすてきな書評本です。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2017 全国大会の発表より>

こちらもおススメ

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有川さんの描かれる世界はとてもリアルだと思います。塩の街というのは、普通はありえない設定なのに、なんだか明日同じことが起こるのでは、と思わせられます。日常の、すぐ近くにある異質にドキドキしながら読むことができます。

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泉ハナ(祥伝社文庫)

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近久さん mini interview

小説、エッセイ本が好きです。作家さんは有川浩さんです。

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